91~私はどこに連れていかれるのか?
「冷たいっ!」
「ポタポタ水が垂れてくるよ。この牢獄はもう古いしさ。それに上の通りに降りた朝露や霜が、昼時になって暖かくなると、この天井から染み出す」
「その音ね。チャポンチャポン」
「乾物屋まで小雨が降ってるって感じさ。ほら、ロウソクを足元に。光るだろ?水溜まり」
「あ、あなたの声が変わった。コダマしてる」
「ここが処刑の場。暗くてわからないだろうけど広い空間だ。ちょっとこっちに来てごらん。水溜まりに気をつけて」
ヨーセスはアデリーヌの手を掴むと左の間に引き寄せ、そこにロウソクの火を近づけた。
「見えるかな?」
「ん?大きな木の板?」
「丸く穴がくり抜いてあるだろ? その上にぶら下がってる物を触ってみな。あ、下から触っちゃダメ」
「錆びた臭いがする。冷たい!」
「ギロチンさ」
「えっ!触っちゃった!」
「もう100年も使っていないんだ。血のりなんか残っちゃいないさ」
「魔女たちはこれで?」
「たぶん」
「火炙りとか海に沈めるとかではないのですね」
「そう、この地下で火炙りにしたら煙にまみれて処刑人だっていられない。それに焼くっていうのは命を落とすまでに時間も掛かる。悪魔も隙を見て逃げ出しちまうよ」
「、、、」
「海にドボンッてのはさ、死んだのかどうか確認できないし、漂流して流れ着いてしまうかもしれないだろ? きっちりと魔女の死を目の前で確かめられるのはこの刃だ。あっという間に。スパッと、悪魔を死滅させることもできる。ギロチンの憂き目に遭うのは上流階級の犯罪者だけと相場は決まっている。けど、魔女はそれと同じやり方だ。貴族の処刑のされ方とね。だからだよ、シャレコウベだけがゴロゴロ落ちてる」
「こんな地下の暗闇で、、、」
「いや、その頃はこの中、煌々(こうこう)としていたみたいだよ。ほら、あちこちにあるこの小さなもみの木みたいな三角の山。この蝋の火を当てると。見ててみな」
「あ、溶けてるのかしら?蝋の匂い」
「そうこれは溶けた蝋がまた固まったものさ。歩いて行くとわかるけど、この三角が鉄格子の前、ずっと両脇にあるんだ」
「あの、それはそうと、私はその乾物屋に行って、、、それから?」
「荷車に乗ってもらう。荷物のようにボロ布をかぶせる」
「荷物?」
「キルケとイワンが港まで取りに行ってるんだけどさ。その荷車。そんなところに置いといたらきっとなくなっているよ。隠修士たちが見つけてすぐに乾物屋に届けにくるはず」
「?」
「俺は奴らに金を払っているし、古い荷車は隠修士にとっても乾物屋の親父にとっても大事なものさっ」
「何の話ですか?」
「わからないよな」
「荷車の話なんかより、私はどこに連れて行かれるのか? それだけです」
「ここを抜けて乾物屋に出るだろ。そしたら荷車に乗ってもらってぇ、、、」
「それで?」
「海に向かう」
「ドボンですか?」
「いや、船に乗ってもらう」
「船?どこへ?」
「マーゲロイという島だ」
画・童晶
※本日、前話90話と91話。2話更新致しました。
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