90~店の地下・回転扉
「螺旋階段? ラーシュはどこにいるのです?」
「また説明はする。キルケが言っていたのが本当なら、時期にドロテアがここに来る。たぶんヘルゲが話しちまってるだろうからな。えーっと、アグニア、、、」
「アグニア? 私はアデリーヌですが」
「あ、そうだアデリーヌだ。お前の後ろの壁を押してごらん」
「壁を押す?」
「簡単にはいかないから、一緒に」
アデリーヌは薄明かりの壁の前に立つと、パタパタと掌で叩いた。
「壁ですね。重そうな厚い木の壁?」
ヨーセスは壁に椅子をあてがうとその上に乗った。大きく伸びをするようにつま先立ちになると、何やら掛けてあった金具を外した。
「良いか、この壁の右角の方を。ほら一緒に。ゆっくり。強く」
ギギギギィ~ グルリン グルルン
「え、あっ!どういうことですか?」
この部屋とは全く違う生暖かい湿気を帯びた靄。その空気がアデリーヌの体をモワと覆った。
「へへっ。回転扉」
「まだこの先に部屋があるのですか?」
「部屋と言えば部屋。暗くてわからないだろうけど、ずっと先まで地下回廊になっているんだ」
「回廊?」
「ちょっと来い」
ヨーセスはテーブルの上のロウソクを手にすると、アデリーヌの腕を引っぱった。
「触らないでください!蝋の火があればわかりますから。それよりも私をどうするおつもりで?」
回廊に3歩歩き出したヨーセスはその火を右に左と照らした。
「ぎゃ!ここは!」
「そう、鉄の格子の牢獄だ」
「おかしいと思ったんです。ただのお店にこんな地下の部屋があるなんて」
「ただは余計」
「恐い」
今度はアデリーヌがヨーセスの肘を強く握った。
「ここはな、到に100年は使われていない。魔女狩りにあった者たちの牢獄」
「その頃から?」
「もっともっと昔から」
「もう戻りましょう。よろしいでしょ?」
「いや、この先まで行ってもらう」
「ごめんですわ。どこまで続いているのです?」
「4軒先の乾物屋までだ。途中、左側に鉄格子のない大きな広間があってさっ。そこが処刑場。シャレコウベがごろごろしてる。で、その右側にミサを行うベンチ椅子。天井からは十字架が垂れ下がっている」
「こんな暗いところで」
「公にはできないからだろ? この街はまだ良い方だ。他の町や村は公開処刑だったらしいからね」
「その乾物屋にも入り口が?」
「そう。どっちが入り口でどっちが出口かはわからないんだけど、普通の牢獄なら入り口一つでいいはずだろ? 魔女使いってのは他の犯罪者と違って、魔の気をもっている」
「私はもってないから知らないわ」
「その気を籠らせないためにさ。牢獄だというのに、空気の通り道を造ったらしいんだ。魔の気が抜けるように。処刑しても悪魔の霊だけは生き続けるって」
「今からここを、そのロウソク一つで?」
「乾物屋に出る」
「バレてしまうではありませんか?」
「俺にとっては盗まれた店の品物より、乾物屋の荷車の方が大事なのさっ」
「変なの」




