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90/1501

90~店の地下・回転扉

「螺旋階段? ラーシュはどこにいるのです?」


 「また説明はする。キルケが言っていたのが本当なら、時期にドロテアがここに来る。たぶんヘルゲが話しちまってるだろうからな。えーっと、アグニア、、、」


「アグニア? 私はアデリーヌですが」

 「あ、そうだアデリーヌだ。お前の後ろの壁を押してごらん」


「壁を押す?」


 「簡単にはいかないから、一緒に」


アデリーヌは薄明かりの壁の前に立つと、パタパタと掌で叩いた。

「壁ですね。重そうな厚い木の壁?」


 ヨーセスは壁に椅子をあてがうとその上に乗った。大きく伸びをするようにつま先立ちになると、何やら掛けてあった金具を外した。



 「良いか、この壁の右角の方を。ほら一緒に。ゆっくり。強く」



ギギギギィ~ グルリン グルルン


「え、あっ!どういうことですか?」

この部屋とは全く違う生暖かい湿気を帯びた靄。その空気がアデリーヌの体をモワと覆った。

 

 「へへっ。回転扉」

「まだこの先に部屋があるのですか?」


 「部屋と言えば部屋。暗くてわからないだろうけど、ずっと先まで地下回廊になっているんだ」


「回廊?」


 「ちょっと来い」

ヨーセスはテーブルの上のロウソクを手にすると、アデリーヌの腕を引っぱった。


「触らないでください!蝋の火があればわかりますから。それよりも私をどうするおつもりで?」


 回廊に3歩歩き出したヨーセスはその火を右に左と照らした。


 「ぎゃ!ここは!」

「そう、鉄の格子の牢獄だ」


 「おかしいと思ったんです。ただのお店にこんな地下の部屋があるなんて」


「ただは余計」

 

 「恐い」

今度はアデリーヌがヨーセスの肘を強く握った。


「ここはな、到に100年は使われていない。魔女狩りにあった者たちの牢獄」


 「その頃から?」

「もっともっと昔から」

 「もう戻りましょう。よろしいでしょ?」


「いや、この先まで行ってもらう」

 「ごめんですわ。どこまで続いているのです?」


「4軒先の乾物屋までだ。途中、左側に鉄格子のない大きな広間があってさっ。そこが処刑場。シャレコウベがごろごろしてる。で、その右側にミサを行うベンチ椅子。天井からは十字架が垂れ下がっている」



「こんな暗いところで」

 「公にはできないからだろ? この街はまだ良い方だ。他の町や村は公開処刑だったらしいからね」


「その乾物屋にも入り口が?」


 「そう。どっちが入り口でどっちが出口かはわからないんだけど、普通の牢獄なら入り口一つでいいはずだろ? 魔女使いってのは他の犯罪者と違って、魔の気をもっている」


「私はもってないから知らないわ」


 「その気をこもらせないためにさ。牢獄だというのに、空気の通り道を造ったらしいんだ。魔の気が抜けるように。処刑しても悪魔の霊だけは生き続けるって」


「今からここを、そのロウソク一つで?」


 「乾物屋に出る」


「バレてしまうではありませんか?」


 「俺にとっては盗まれた店の品物より、乾物屋の荷車の方が大事なのさっ」


「変なの」




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