89~帰って来たドロテア
澄んだ乾いた空気。
降り注いだ真昼の直射日光が、ヘルゲの館のオレンジ色の屋根を照らしていたが、骨休みに立ち寄った沢山のウミガラスの糞で始末に負えなかった。
太陽の日差し照り返すこともなく、その濡れた黒白に沈み込んだ。
「まったくぅぅ! ほれほれっ!お前ら!海に帰れ! ここに糞をするでない!」
ヘルゲは家の外壁に梯子を掛けるとヨタヨタと攀じ登り、その群れをハタキで追い立てた。
しかしウミガラスの群れは飛び立つわけでもなく、ハタキの先から逃げるように右へ左へとトコトコと移動するだけであった。
「まあ、この辺りじゃ一番大きい屋根だからな。気持ちはわかるが糞はするな」
「おい!なにをウミガラスの気持ちになっておるんじゃ!」
「おっ!あっ!ドロテア!」
「帰ってきたと思えば玄関まで糞を零しおって!」
「いや、わしの糞じゃない!屋根掃除を始めたばかりだ!」
「これでは家の中に入れぬではないか!」
「ペトラに頼んだんだが、屋根は無理だと」
「当たり前だ。あんな婆さんに頼むお前が悪い」
「それにしても早かったな」
ヘルゲは梯子をグラグラと揺らしながら玄関先まで下りてきた。
「ああ、悪いか?」
「いやいやそうではないよ。あ、それよりもだ! アデリーヌが消えよった! お前が行ってしまった晩からいないのだ。もうだいぶ夜が更けた頃」
「晩?更けた頃?なぜ晩からいないとわかる?」
「?」
「それは遅い晩に小屋に入ったということか?」
「あ、あ、あ、まあ」
「いやらしい!」
「しかしな、とにかく消えてしまったんだ。あの錨の付いた鎖まで外して」
「そうかい」
「でな、しかもだ。素っ裸で出て行きよった」
「なぜわかる?」
「ペトラに捜してもらっていたら、井戸の中にアデリーヌの農着が落ちていた」
「そうかい。それより私はお腹が空いた。ペトラは今なにか作っているかい? 煙突から魚を焼く匂いがするが」
「あ、それはわしのだ。まさかお前がこんなに早く帰って来るとは思わなかったからな」
「ではその焼き魚。私がいただく」
「え?」
2人は玄関の扉を開けると、その匂いのする厨房と繋がった食堂に向かった。
「そういえばな、今キルケとイワンたちにアデリーヌを捜しに行ってもらっておるのだが、その間ヨーセスの店にな、タリエ侯爵の使いの者が立ち寄って、店の物を全て買い上げてくださったそうだ。やっぱりタリエは凄い奴じゃ」
「は?タリエの使い? どんな身成りだった?」
「わしは見ておらぬ。キルケたちが接客をしてくれたらしいぞ。たわわに儲けたな。小遣いを少々あげてはもらえぬかな?」
「タリエの者が来るなぞ聞いてはおらんぞ。侯爵殿は使いの者でもここに立ち寄る時は必ず私に手紙をよこす」
「しかしキルケは、お前とヨーセスに頼まれていたと言っていたが」
「は?で金は?」
「知らん」
「アホ!それを聞いたなら、なぜちゃんと金は頂いたかを確かめぬのだ!」
「あ、、、」
「アデリーヌのことで頭がいっぱいだったのであろう?」
「あ、あ、あ、」
「しかし、タリエ侯爵の使い?って?」
※86~荷車の挿絵を掲載しました。
6台も描くのが大変なので(笑)1台だけ。
こんな感じのイメージっていうくらいです。
ご覧になられるのは、本当よろしかったらで全く構いません。
大した絵ではございませんので、、、




