84~島を出た兄妹・13と7の意味
ヨーセスはドロテアの言うがまま、18の歳にしてマーゲロイの島を出た。
すでにテオドールという男に目を付けていたドロテアは、その妻を魔女として狩った。
その時、飯炊きを頼みに来たこの島で、若くて美しい男ヨーセスを目にし一目で気に入った。
その18の少年は明らかに他の少年と違った。バレンツの海のように青く光る眼。肩までの長く艶やかな髪の少年であった。
しかし、18ともなれば物心は大人と幾分も変わらない。
ドロテアがマウリッツを占拠すると知った彼は、自らドロテアの手に降った。
島に着けた船にドロテア達と乗り込む前であった。
ヨーセスは妹のゲルーダにこう言い残した。
「よいかゲルーダ。しばらくはドロテアの言いなりになるんだ。何年掛かるか分からないが、マウリッツには魔女狩りの憂き目にあった男たちが詰め込まれるらしい。けどな、マウリッツの辺りは真冬には極寒。ドロテア達だってそうそう来れやしない。それに一度に多くの男が牢獄されても島の者達が調達する食糧だって大変だし、色男だってそうそう多くはいない。きっと選りすぐった連中だ」
「それが?」
「ここに時折訪れる婆さんがいるだろ?」
「ああ、アグニアだね。漁の途中でこの島に寄って魚を置いてゆく」
「そうそう、あの婆さんは俺たちの島よりもっと北の、、、東の方。エスキモーだ。昔から俺たちを助けてくれている北極圏の民」
「そうだったんだ!この辺りの者となんとなく顔が違ってた」
「俺は信じているんだけど、彼女は本物の魔術使い。去年ここに寄った時に聞いてみたんだ」
「なにを?」
「俺たちはマウリッツに戻れるかと」
「で?」
「アグニアは空を見上げた。満天の星空。人差し指を天に向けると、何やら数えていた」
「?」
「で、婆さんは言った。マウリッツに戻れるとしたらそれは」
「それは」
「そこが良くわからないのだが、、、13の月と7つの星と言っていた」
「どういうことだろう?」
「わからん。けどアグニアはそう言ったんだ」
「ヨーセスの兄は信じてるの?」
「ああ、信じてその意味がわかった時になにか事が起こる、、、てなっ」
「覚えとく」
「じゃあ、俺は行くよ」
「あ、父さんと母さんには挨拶した?」
「昨日言うだけ言っておいた。今言ったら、泣かれるだろ?」
「わたしだって泣くよ!」
「ありがとう。けどな、ドロテアの下、街にゆき、ガッポリ稼いでやる。お前のホッペが落ちるほどの飴玉を担いで帰って来るよ。」
「ホッペは落ちないよ」
「ハハハッ!じゃあな!ゲルーダ。元気で。お前もマウリッツの小屋で働くなら、またすぐに会える」
「え?街に行っちゃうんでしょ?」
「いや、ドロテアの一番のお気に入りになって、マウリッツに来るときは必ず俺がその横にいるさ」
ヨーセスは島を出た。
そしてゲルーダもまたマウリッツの飯炊きにと島を出た。
女だけの飯炊きと警備。
その小屋には鎧や鎖帷子、槍と盾がドロテアに寄って用意されていた。
もちろんマウリッツの城から男たちが逃げ出さないようにする配慮だった。
※66~「タイツも下ろすのだ」に挿絵を入れました。
タイツを脱ぐ絵ではありませんが(笑)




