83~ゲルーダの兄
「ゲルーダ・イブレートぉ?」
「じゃ、お前この城の? 末裔?」
「お前って言うんじゃないよ!」
セシーリアは蹴り上げて浮き出た芝を掴むと、ニルスに投げつける素振りをした。
「待て待て。女。それは誠か? 嘘を言うんじゃないぞ」
『嘘ではないが、200年も前の事。信じられんのも良くわかる』
「で、俺たちから鍵を奪い獲ってどうする気だい? ここを自由にお前らの物にしようったって、ドロテアもいる、その上にはタリエだっているんだ。 勝手なことはできないぞ」
『では、お前達は愛する可愛い妻を助け出したくはないのかい?』
「は?お前達にそんなことができるのかい? そりゃあ大昔は貴族の流れを組んでいた者だろうけど、今はただの雇われの飯炊き女だろ?」
『確かにそうだ。200年も前にここはベルゲンの海賊に襲われた。そして私たちの祖先の多くはこの先の海の向こう、マーゲロイという島がある。そこに逃げ延びた。陸路を逃げた者は、今ではヘルゲの港町辺りにひっそりと住みついている者もいる』
「で、なんでドロテアの飯炊きに雇われた?」
『ドロテアは我々がイブレートの子孫などとは知らぬ。たまたまこのマウリッツの近くの島に住んでいた私たちに目をつけた。放牧、農場。全てを備えていた私たち部族に、お前らの飯炊きを頼んで来たのだ。この城に寄り着くことができなかった我々は、これを絶好の機会と海を渡りこの城壁の小屋に移り住んだのだ。食糧は島の男たちが船で運び、ここは女だけでせっせとお前らの食事を作った』
「ほう、話の筋は間違いなさそうだ」
「けど助け出したいか?ってさ。俺たちの女房は生きているかもわからないのだぞ。そんな勝手なことを言って味方につけようだなんて考えじゃあるまいな?」
『皆、生きているよ』
「は? こんな辺ぴな地を出たこともないお前らに何がわかる? それに俺たちの女房の何人かはバレンツの海に突き落とされていると聞いた。俺たちは皆、ここに連れて来られた日が同じではない。まだ俺の女房が魔女狩りに遭う前から噂は聞いている。このテオドールの妻だって、、、」
「え!ニルス、俺の女房がどうなったか知っていたのかい?」
「ああ、まあな。きっと後からここに入って来た連中だって俺の女房がどうなったのか知っていると思うよ。ただ口にしないだけ。なっ」
ニルスは後ろにいた10人ほどの男たちの方を振り向いた。
男たちは下を向いた。
『それは噂に過ぎない』
ゲルーダが言った。
「なぜ?」
『お前達は、バレンツの海に魔女たちを引きずって行った者たちを知っているかい?』
「ん?知らん」
『隠修士だ』
「それが?」
『さっき言ったであろう? マウリッツから陸路を逃げた者。それがその先々の町で酷い差別を受けてな。神を乞うたが教会にも入れてもらえず、乞食のような信者として彷徨った』
「では俺たちの女房を処刑したのは、お前らの仲間?」
『処刑と称して匿っている者がおるから安心せい』
「え、誰?」
『私の兄だ』
「兄?」
『ヨーセス・イブレート』
※82~「マーゲロイ島・平原の少女」に挿絵を掲載しました。
ん~、ちょっと下手くそだな、、、
いつもお読み頂き誠にありがとうございます。
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