81〜【第2章・トロムソ】ゲルーダの正体
※これより第2章突入です
「何者なんだい?」
テオドールがゲルーダに尋ねた。
『知らないのも当然だが、お前らに飯を与えている者だ』
「しかしその格好は前にも見たことがあるぞ」
『そんなことより、なぜ扉が開いた? 鍵を持っているのかい?』
「押したら開いたんだよ」
『嘘をつくんじゃない。開くわけがない』
「ドロテアさまが閉め忘れたんじゃないかな?」
『ほ~う。ではなぜ外に丸太が噛ましてあるのを知っていて押すんだい? おい、そこの! 今タイツのポケットに手を突っ込んだ奴! その裏地を見せてみろ! そう、その裏地を引っ張り出してみろっ!』
「チッ」
ジャリラン
『ほれ!それだ!それをこちらに!』
見つかったニルスは、渋々ゲルーダに鍵を放り投げた。
「なぜ鍵がいる? お前ら以前、俺たちの子を庭で遊ばせた時にここに入って来たではないか? どこで見張っていたのか知らぬが、お前達であろう? その身成だった」
『ハハッ! 入った!入った!そう見えたかい? しかし入ってはいないよ』
「は?」
『霧が芝に立ち込めていた日であろう? 太陽が城壁の上を照らすとな、その上に立っている者をその霧に映し出すのだ。お前らが見たのはそれ。蜃気楼。陽炎のようなものだ。理屈は知っているであろう? だからな、ドロテアさまがお見えになる時以外、中に入ったのは今日が初めて』
「あ~、俺の家からバレンツの海を見下ろすと海の上に家やら山やら映し出す。それかい?」
ラーシュがそう言うと、ゲルーダはいつもの癖で首をコクリと頷いた。
「で、鍵を取り返してドロテアさまに返すのかい?」
テオドールは言った。
『返すわけがない』
「なんだその言い方?」
『この城は私たちの物だ』
「私たち?なんで?」
ポケットの裏地を仕舞いながら今度はニルスが聞いた。
「お前らそんな格好してるけど、ドロテアさまに仕えているただの飯炊き女だろ?」
「はぁ~?!飯炊き女ぁ~!?」
ゲルーダの隣にいたセシーリアが、怒り露わにバタバタと地面の芝を蹴り上げた。
「ゲルーダさまになんてこと言うんだい!」
「ニルス。よせよせ。俺たちはこの女たちにどれだけ世話になったと思ってるんだ。お前いつも美味しい美味しい!って食べてるくせにさッ」
テオドールがニルスを正した。
「で、このゲルーダってのがコック長かい? さっきから「さま、様」って」
今度はラーシュが茶々を入れた。
「呼び捨てにするんじゃないよ!」
セシーリアがまた芝生を蹴り上げた。
「ゲルーダさま!名前を言っておやんなさいよ!」
「ゲルーダだろ?今聞いたじゃん。けど名前を聞いたからって、どうなるもんではないよ。お嬢様ッ」
「私たちが今武器を持ってないからって調子に乗るんじゃないよっ!新入りぃ~!」
セシーリアが三度芝を蹴り上げると、ゲルーダはニコと笑って言った。
『私の名はゲルーダ。 ゲルーダ・イブレートだ』




