表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/1501

8~ラーシュと3人の兵

「ほれほれ、食い終わったらとっととお行き!」

 「アグニアの婆さん。皿でも洗っていこうか?」

「そんな事をしておったら、漁から男衆が戻って来ちまうよ。さあさあ出て行っておくれ!」


ーーーーーーーーーーーー


 3人の姿はラーシュの丘の上にあった。

それぞれにまたがった3頭の黒毛の馬。吐く息はもんもんと熱く白かった。

彼らは自分達を騎士と名乗ったが、その容姿はどう見てもゴロツキ。

ヘルゲ男爵にとってもただの使用人の扱いだ。


「おい!ラーシュ!ラーシュっ!」

「返事がないな」 

「んん?外にはおらぬようだな」


3人はその家の前まで来ると、扉の取っ手に手を掛けた。

ガチャリ

「お?開いておるぞ」

「おや?もともと、鍵などないのだな」


挿絵(By みてみん)


「おーい! ラーシュ! 中に入るぞぉ~」

小窓から朝の日が降り注ぐ農機具が置いてある土間。そこから声を掛けたが返事はない。


「ここかあ?」

 もう一つの部屋の扉を開けた。

土間続きの部屋。その奥には枯れ草をいただけのちたベッド。

その草を飼い羊がムシャムシャとほおばっていた。

その羊の白い息の向こう、スヤスヤと眠るラーシュと赤ん坊の姿があった。


 アデリーヌがいなくなってからの数日。ラーシュは畑仕事をしながらヤンをあやした。

朝昼晩と羊の乳を絞り、そのミルクをヤンに与えた。

 ぎゃあぎゃあと泣き出せば畑仕事の手を休め、木車の荷台に寝かせたままギッコンバッタンと揺らした。

その合間をぬってアデリーヌがいつ戻ってきてもいいように部屋の隅々まで掃き掃除をした。


 ラーシュは幾日か眠れない日が続いたが、身体は正直だ。

この明け方に、ようやく眠りについたばかりだった。

大きなイビキと、赤子のスースーという寝息が交互に輪唱を奏でていた。


「眠っておるのか。悠長なもんだなあ」

「そっくりな顔だな」

「アデリーヌにも似ておるが、こうしておでこを引っ付けて寝ているとラーシュとも瓜二つだ」

「この夫婦が似ておるということであろう」



「おい!起きろ!ラーシュ!ラーシュ!起きろ!」


ラーシュは目の玉をひん剥いて飛び起きた。

 『な、なんだお前ら! 勝手に人の家に!』


「久しぶりだな。ラーシュ」


 『んん?』

ラーシュは身体半分をベッドから起こすと、その目を擦った。

 『あ!!お前ら!この間の!』


「へへッ~」


 『おい!アデリーヌをどこにやった!!返せっ! 戻せ!』

ラーシュはスクと立ち上がると一人のゴロツキ兵の襟元を掴み上げた。

「痛ぇッ、痛いんだよ! 離せ! 話があって来たんだ!落ち着け!」


 『他人の家に勝手に上がり込んどいて、落ちつけ!はないだろう! ふざけやがって!』


「まあまあまあ、とにかくな。話を聞いてくれ」

もう一人のゴロツキが言った。


「あのな。アデリーヌ。戻せるかもしれんぞ」

 『えっ?』


「今な、裁判が始まったんだ。お前には悪いが魔女裁判てやつだ。聞いた事があろ?」

 『お前らぁ~!勝手な言い掛かりで俺の妻を魔女に仕立てておいて、なんて言い草だ!』


「でな、その裁判。お前の証言があれば、アデリーヌは無罪放免となるかもしれん。なのでな、一緒について来てもらいたいんだ」

 『当たり前だ!元々なにもしてはおらん! お前らがよくわかっておるだろうに!』


「どうする? ついて来るかい?」


 『決まっておるだろ!!行くわ!行くっ!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おおお。 ここにきて一筋の光明が! どうか、上手くいって欲しいよ~。
[良い点] ゴロツキの嫌な感じが出ていて良いですね。憎たらしく感じるのはそれだけ上手な描写なのだと思います。 [一言] とても嫌な予感がします。行かないほうがラーシュは良いような気もします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ