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78~紐を解いてやろうかい? その代わり、、、

 ドロテアが逃げ帰ってしまったその日の昼下がり。

太陽さえ現れれば、海流からの西風が暖かい空気をこの地に運んでくれる。

マウリッツの城内からはヤギのメエメエと鳴く声だけが聞こえていた。


「ゲルーダさま。開けますよ」

そう言うとセシーリアはミカル達が閉じ込められていた小屋を開けた。

ドロテアがここに来る前から焚いていた暖炉の薪は燻ぶりながらも小屋を暖め続けていたのか、ム~とした空気がセシーリアの頭の上を翳めていった。


 一晩中起きていたせいか、朝方から眠りについた小屋の中の3人は、グッショリと汗を流し、手を縛られたまま横になっていた。


 ゲルーダとセシーリアはきっとミカル達がお腹を空かしているだろうと、城の男たちの朝食の残飯を手にしていた。


焼いたニシンが乗った皿をミカルの鼻先に当てると、ピクリと起きた。



「わわわッ!なんだお前ら!誰だ!」


 『あれま?ミカル殿。もう何度もお会いしていますわよ』

「は?会ってる? こんな、、、美しい女子おなご達など、、、みたことはない」


 『あら?褒めてくださるのね?』

「それよりも、なんだあのぅ、そのぅ、俺たちを縛ったのはどこのどいつだい!? お前らこの紐を解いてくれに来たのかい?」


 「ほんとに覚えてないみたい」

セシーリアが持っていた槍で、まだ火の点いていた薪をほぐした。


 『縛ったのも私たち。解くのも私たち』


「あ!お前ら!鉄兜かい!やっぱり女だったのかい!」


 『みたいだわね』

「以前から何度も来ていたが、会うたびお前らは一言もしゃべらなかった。ただ首をコクリとやるだけ。わかるわけがない」


 『しゃべらなかったのは私たちが美しいからかしら?』

「ん?そんな理由があるかい?」


 『あんた達に女だとバレちゃうとね~、ドロテアさまは自分がそっぽ向かれちまうと思ったからじゃないかしら? みんな美人揃いなのでね~。だから口をつぐんで男の賊として振る舞えって言われてたの』


「昨日飯をくれと言った時に、槍を引っぱった馬鹿力もお前かい?!」


 『鍛えれば女だって強くなれるわ。あんたみたいなヤサ男には負けないわ』


「で、なんで今女だって事をバラシてんだよ。ドロテアさまに叱られるんだろ?」


 『もういないから。それに二度と来ないかもしれないから』


「は?どういうこと?」


 『出たのよ。この城に』

「なにが?」


 『イブレートの亡霊が』

「え!」


 『ドロテアもヨーセスもヴィーゴもみんな慌てて逃げ出した。残っているのはあなた達だけ』


「嘘だろ!?」


 『嘘じゃないわ。だからこうして私たち鉄兜が、女だって事バラしてるんじゃない。おわかり?』

「おわかり」



 『紐を解いてやろうか? そうしないとここにも現れるかもしれないわね?イブレートが』


「解いてくれるのかい?」


 『その代わり。この城壁の扉の鍵。渡しな!!! ほれ!焼いたニシンもくれてやる!』



※17話「料理番の婆さんと男たち」にメイドの婆さんペトラのイメージ画を掲載しました。

宜しかったら是非ご覧ください。


いつもお読み頂き誠にありがとうございます。

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