表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/1501

76~くすんだ宝はいらない

 マウリッツの城の男たち。

早々と朝食を済ますと、ニルスが庭で見つけた3つの麻の袋に見入った。

食べ終わったテーブルの上の皿を積み重ね、隅に寄せると、ニルスはその開いたクロスの上に3つの袋を置いた。


「ニルス、開けてみてもいいかい?」

 「待て待て。そんな油の付いた手で触るな。ボウルで手を洗ってからだ」


男たちは体を寄せ合って、その水の中に指を入れた。


 固く結ばれた麻の紐であったが、垂れている一方の紐を引っ張るとスルリと解けた。

ニルスは袋の底を持つと、クルリと逆さまにした。


ジャラジャラジャラ~ ガチャン コロリン


「おー! これは!」


 出て来たのは銀に翡翠を散りばめた鷺の形のペンダント。赤や青の七宝のリング。

細かい細工を施した青銅の腕輪。黒い水牛革の地に真珠をあしらった腰ベルト。赤珊瑚のイヤリング。


「なんか凄い物がでてきたぞ!」

 「この辺りの物じゃないな。見た事もない」

「いくつある?」

 「1つ、2つ、3つ、、、13個」


 「人数分だ」

「なんだ。いつものドロテアの土産じゃないのかい?」


 「じゃ、やっぱりドロテア達が落としたってわけだ」


「俺はいつもと違う品だから、イブレートの亡霊が置き忘れたのかと思ったよ」


男たちはペちゃくちゃと話しながらも、品々から発する一風変わった香気にしばらく酔いしれた。

 


 『けど、これ宝なのかい?』

ラーシュが一声上げた。

 『俺がヤギの腹の下で見つけた玉の方がよっぽど綺麗だ』



 テーブルの上のそれらは、確かにぼやけた輝きの物ばかりだった。


金やダイヤ、オパールにサファイア。

この国の宝の光とは雲泥の差。


それに比べ、青銅に七宝、珊瑚に真珠。どれをとってもくすんでいた。半透明の物。


 『俺はこんなのいらないよ』

「は?誰がお前にくれると言った?」

テオドールはラーシュの顔を見て言った。



 

「操り人形師ニルスとしては、この細工はどうなんだい?」

 テオドールはニルスに聞いた。

 「ん~、確かに真似のできない職人技の一級品だが」

ニルスは七宝のリングを手に持つと、クルクルと回してそう言った。


「ニルス、欲しいか?」

 「欲しいが、ここから出られないのであれば本当の宝の持ち腐れだよ。テオドールは欲しいかい?」


「いらないな。なんだか薄汚れてるし」

 「古い物だからかな? それとも長い船旅のせい?」


「あ、そうだ!ラーシュ!お前にくれてやるよ!」

 

 『そうだじゃないよ。さっきいらないって言っただろ?』

「新入りのお祝い」


 『何言ってるんだい? なぜここに閉じ込められるのが祝いになるんだよ?』

「まあ、そう言わずに取っておけ。皆いらないみたいだ」

 『皆がいらない物を俺に?』


「ほら、お前のベッドの横の箪笥。その奥にでもしまっておけ」


 『箪笥?ん?そこはぁダメだ、ダメダメ』

「なんで?」


 『いや、別に。なんとなく』






※47話「マウリッツに続く街道」に挿絵を入れました。

宜しかったら是非ご覧になってみて下さい。

いつも拙い絵ですみませんが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  雑然としたにぎやかさと男臭さのする空間。いいですねぇ。身を寄せ合ってボウルで指を洗うところを想像するとなんだか可愛らしく思えてくるから不思議です笑  テオドールの言うように、青銅、七宝、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ