76~くすんだ宝はいらない
マウリッツの城の男たち。
早々と朝食を済ますと、ニルスが庭で見つけた3つの麻の袋に見入った。
食べ終わったテーブルの上の皿を積み重ね、隅に寄せると、ニルスはその開いたクロスの上に3つの袋を置いた。
「ニルス、開けてみてもいいかい?」
「待て待て。そんな油の付いた手で触るな。ボウルで手を洗ってからだ」
男たちは体を寄せ合って、その水の中に指を入れた。
固く結ばれた麻の紐であったが、垂れている一方の紐を引っ張るとスルリと解けた。
ニルスは袋の底を持つと、クルリと逆さまにした。
ジャラジャラジャラ~ ガチャン コロリン
「おー! これは!」
出て来たのは銀に翡翠を散りばめた鷺の形のペンダント。赤や青の七宝のリング。
細かい細工を施した青銅の腕輪。黒い水牛革の地に真珠をあしらった腰ベルト。赤珊瑚のイヤリング。
「なんか凄い物がでてきたぞ!」
「この辺りの物じゃないな。見た事もない」
「いくつある?」
「1つ、2つ、3つ、、、13個」
「人数分だ」
「なんだ。いつものドロテアの土産じゃないのかい?」
「じゃ、やっぱりドロテア達が落としたってわけだ」
「俺はいつもと違う品だから、イブレートの亡霊が置き忘れたのかと思ったよ」
男たちはペちゃくちゃと話しながらも、品々から発する一風変わった香気にしばらく酔いしれた。
『けど、これ宝なのかい?』
ラーシュが一声上げた。
『俺がヤギの腹の下で見つけた玉の方がよっぽど綺麗だ』
テーブルの上のそれらは、確かにぼやけた輝きの物ばかりだった。
金やダイヤ、オパールにサファイア。
この国の宝の光とは雲泥の差。
それに比べ、青銅に七宝、珊瑚に真珠。どれをとってもくすんでいた。半透明の物。
『俺はこんなのいらないよ』
「は?誰がお前にくれると言った?」
テオドールはラーシュの顔を見て言った。
「操り人形師ニルスとしては、この細工はどうなんだい?」
テオドールはニルスに聞いた。
「ん~、確かに真似のできない職人技の一級品だが」
ニルスは七宝のリングを手に持つと、クルクルと回してそう言った。
「ニルス、欲しいか?」
「欲しいが、ここから出られないのであれば本当の宝の持ち腐れだよ。テオドールは欲しいかい?」
「いらないな。なんだか薄汚れてるし」
「古い物だからかな? それとも長い船旅のせい?」
「あ、そうだ!ラーシュ!お前にくれてやるよ!」
『そうだじゃないよ。さっきいらないって言っただろ?』
「新入りのお祝い」
『何言ってるんだい? なぜここに閉じ込められるのが祝いになるんだよ?』
「まあ、そう言わずに取っておけ。皆いらないみたいだ」
『皆がいらない物を俺に?』
「ほら、お前のベッドの横の箪笥。その奥にでもしまっておけ」
『箪笥?ん?そこはぁダメだ、ダメダメ』
「なんで?」
『いや、別に。なんとなく』
※47話「マウリッツに続く街道」に挿絵を入れました。
宜しかったら是非ご覧になってみて下さい。
いつも拙い絵ですみませんが。




