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75/1501

75~ヤギのタテガミとたまご

 「ラーシュはこの木から声がしたと」

「枝も揺れていたと言っていたな」


 テオドールとニルスはナナカマドの木の下から鬱蒼うっそうと茂る枝葉を見上げた。

朝の黄色い陽射しが、その赤い実を照らし、

緑色の艶やかな芝は、2人が立つ影を根元周りに長く映していた。


「テオドール、見えるかい? あそこの枝の先。何かぶら下がっているよ」

 「んん?」

テオドールはおでこに手を当てると、陽射しを避けて茂ったそこに目をやった。


「なッ。靴かな?」

 「ニルス。なにか長い棒はないかい? そんなに高い所じゃないから、、、あ、薪を押し込む棒があっただろ?厨房に」


「それで叩いて落としてみるかい? 取りに行って来るよ」


ーーーーーーー


 

 テオドールはニルスを肩車すると、その棒の先が靴に届いた。


「俺は操り人形師だ。こういうのは得意」

 「あんまり関係ないよ」

 ニルスは体を大きく揺らしながら、枝にぶら下がっている物をパンパンと叩いた。

その大きな振りに、土台のテオドールは足を踏ん張れなかった。

膝がガクガク震え出すと、その揺れに耐えきれず、ニルスを担いだまま後ろ向きにバタンッと倒れた。


「うわ~!」

「痛ッ~!」


倒れたテオドールの顔の上に木靴がポーンッと落ちて来た。

「痛ッて~な!」


ニルスはテオドールが倒れる前に飛び上がり、ピョンと芝の上に降りると、跳ね返ったその靴を手に取った。



「ちっちゃな靴だな」


 テオドールはコブになったおでこに手をやりながら、片手を芝について立ち上がった。

 「ニルス。先に俺の心配をしろよ、、、痛たたた」



「古い靴だ。これさ、踵の上の部分にいかりの細工がしてあるよ」

 「錨?」

「ああ、これは漁民か海賊が履くやつだ。俺もほら人形芝居に出て来る漁民の人形も作っててさ、その靴には必ず錨の彫り物を施してたんだ」


 「ほ~う。じゃあ体の小さい漁民か? 体の小さい海賊ってのも変だし」

「別に変じゃないけどさ。年寄りだよ」

 「なぜわかる?」


「だって、今時こんな靴履いてる奴いないもん」


 「イブレートの靴じゃないのかい? 亡霊の靴」

「イブレートは大柄な男だって伝説だぜ。それにそこまで古い物じゃない」

 「じゃあ、誰かここにいた?」



ーーーーー



『おーい!テオドールぅ!ニルスぅ~!こっちに来てくれ~!』

呼んだのはラーシュであった。




「なんであいつ外にいるの? 飯の支度は?」

 


ーーーーーーーーー


「どうした?ラーシュ」


『あのな。今、ヤギの乳をもらいに搾りに来たんだが』

 「ああ、それで庭に」


『で、出て来たらこのヤギにたてがみが生えててさ。白い』

 「ん?」

『で、卵を産んでた』


 「は?」


『で、よく見たらヤギのつのに女物のズロースが引っかかって、それが首の周りをグルリ』


 「ズロース? それがたてがみ?」


『ヤギの腹の下に水晶玉がコロッと』

 「それが卵のこと?」


『ズロースは俺の部屋にも落ちていた』

 「それはドロテアが待ち切れなくて脱いだズロースだろ?」


ラーシュはヤギの腹の下に入ると、その水晶玉を拾い上げた。


『あれ?このツルっとした感触。昨日俺が投げ返したやつだ』


挿絵(By みてみん)

画・童晶

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