74~宝の入った袋
マウリッツ城の朝。
寒く冷たい朝の大気がその城を包みこんでいた。
城壁をゆっくりと降りて来る湯気を吹いた桶。
茹で上がったばかりであろうニシンに、いつものレモン漬けの卵のピクルス。
他の桶には零れ落ちるほどのパンが山積みになって降りて来た。
いつもなら、同じ献立に坦々と運び込む彼らであったが、今日に限ってはいつもと変わらぬメニューに安堵した。
「しばらくはなんとかなりそうだ。皆、城に運び入れてくれ」
「夜の分まであるよ」
「それもいつもと変わらないな」
「あ、テオドール。扉の鍵を確認しにいかないと」
「そうだった。ニルス、皆に支度を頼んで俺たちで見に行こう」
「もし開いていたら?」
「もし開けたままドロテア達が逃げたとしていても、今料理を運んで来た奴らがきっと気づいたはず。
また閉められているかもしれない」
「けど、開いていたら? 逃げる? 道もわからず寒さに震え、凍え死んで行倒れだよ」
「それは皆で相談だ。とにかく壁の扉が開くかどうかを」
テオドールとニルスは、他の男たちに朝飯の支度を任せ城壁の扉に向かった。
「あれ?なんだ?あそこに落ちているのは?」
それは扉の数歩手前の辺り。
3つの巾着の麻袋。口はその麻の紐で縛られていた。
拾ったニルスはそのうちの一つを手に取って右の耳元に当てると、軽く揺らした。
ガチャガチャ
「ん?なんだ?鉄の擦れるような音。それになんだか重い」
「3つともかな?」
テオドールもその袋を一つ手にして耳元で揺らした。
「金属だな?なんだろう?」
「慌てたドロテア達が落としていったんだろうな」
ニルスは固く縛られた紐を解くと、中を覗いた。
「テオドール! これはお宝だよ」
「お宝?」
「なんだか見た事もない装飾品だ!全部開けてみるかい?」
「待て待て。鍵の確認が先だ。取りに戻ってくるかもしれない」
テオドールとニルスはその麻袋を石畳の上にそのままにすると、数歩進んで扉の取っ手に手を掛けた。
ガチャガチャガチャ
「ダメだ。掛かっちゃってる。それに扉の隙間から、噛ませてある丸太が見える。いつもと変わらない」
「慌てていても、鍵だけはしっかりとか、、、」
「俺たちが逃げ出さないように掛けたというより、イブレートの亡霊を閉じ込める為に慌てて鍵を掛けたんじゃない?」
「なにか凄い慌てぶりだな。こんな大事なお宝まで落としてすぐに扉をガチャリ」
「なあ、テオドール。さっきラーシュが言っていたナナカマドの木。揺れていたとか、、、それにそこから石が投げ込まれたとか言っていた。木の所までいってみないか?」
「なにかわかるかも知れないな」
2人はもう一度3つの麻袋を手にすると、城の北側に回り込んだ。
城の中からは美味しそうなニシンの香りが漏れ出していた。
※いつもお読み頂きありがとうございます。
またまた後載せの挿絵。
今回は前話 73~「ヘルゲ男爵の頭の中」に掲載。
宜しかったら是非ご覧ください。




