73~ヘルゲ男爵の頭の中
「とにかくさッ。ドロテアが戻って来る前になんとかしなきゃだよ」
キルケが言った。
「ヨーセスだってこの空の店見たら、驚いて怒り出す」
イワンが答えた。
「品物なくてもちょろまかせたのはヘルゲだけ」
「しかも、トール一人の話だけで信じ込んだ」
「ヘルゲ、、、ヘルゲを利用できるかなぁ、、」
「キルケ。俺たち2人は昨日の朝、ヘルゲの館を出てからまだアデリーヌを捜し廻ってるって事になっている」
「そうだな。ただヨーセスの店の品を売りさばいてしまったって事にもなっている」
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「ヘルゲ殿ぅ!ヘルゲ殿~!」
「開けてください!ヘルゲ殿~」
『だれだ? 朝からうるさい奴らだ。今開ける』
ヘルゲはまだ寝巻のままだったが、玄関を叩く声が男の声と知って、そのままの姿でドアを開けた。
アデリーヌが気掛かりで、寝付けずの寝返りは、髪を蜷局のカタツムリにしていた。
ガチャリ
『お!なんだ!キルケとイワンではないか!』
「はいはい、キルケとイワンにてございます!」
『もしや、その慌てぶり!アデリーヌが見つかったか!? 裸であったか?!』
(気にしてるのはそっちか、、、やっぱりちょろまかし易い
「いえいえ、それがそうではなくて」
『は? 見つかっておらんのか?』
「実は昨日の朝の事、タリエ侯爵の使いの者がヨーセスの店に立ち寄りまして」
『ああ、トールに聞いた』
「ドロテアさまとヨーセスに頼まれておりまして」
「そうなんですよ。昨日それをヘルゲ殿に言おうとしたところ、魔女が薪小屋から消えたと仰られた。でそのことをすっかり忘れて飛び出して、、、」
『そうだな。それはアデリーヌ捜しが優先される』
「はあ?」
『で、どうしたのだ? 見つかってないのにその慌てぶりは?』
「港の近くで漁網を編んでいた漁民の一人が昨日の朝、そうです私達がタリエ侯爵の使いの者に品物を売った後のことだと思います」
「乾物屋に借りたんですよ。ヨーセスの店の4軒先の。荷車6台」
「そのうちの1台に、朝の光を跳ね返すほどの美しい女が全裸でチョコンと乗っていたと」
『昨日は曇り空であったが、、、いたのだな!裸の美女が!前から何台目の荷車?』
(着目点が、、)
「とにかくその女がですね、この薪小屋に捕らわれていた魔女ではないかと?」
『で、どこへ?』
「そのタリエ侯爵の使いの者が乗って来た帆船に乗り込んでいったようであります」
『はあ?行っちゃた、、、?』
「連れて行かれたようです」
『もう良い。お前ら帰れ。昨日寝てない。今から寝る』
「では失礼いたします」
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「ヘルゲ。すんなりだったな」
「ああ、それを見た漁民は誰だ?とか普通聞かない?」
「確かな情報かもわからないのに疑いもしない」
「こっちが用意してた文句はひとつもいらなかったな」
「それに、品物を売った金はどうした?とか一言もなかった」
「頭の中はアデリーヌ一色だな」
「話し込む3人}
画・童晶




