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70~袋のネズミ

「どうしたんだぁ!?」

テオドールとニルス達、この城の住人12人が、階段を転がるように降りて来た。


 ガラスの割れる音。

ドロテアの悲鳴とバタンと倒れたような音。


 

 ドロテアの参上に寝付けず、寝ている振りをしていた男たちは、全ての音を聞き逃さなかった。


皆が階下のホールに降りると、ラーシュが何事も無かったかのように、ヤンを抱いてあやしていた。

その姿はタイツ一丁であった。



「なにがあったんだ?!」

テオドールはまばたきもせずにラーシュの眼をうかがった。

「ドロテアさまは?」


 『帰ったようだよ』

「えっ?もう終わったってこと?」


 『終わったって?なにが?』

「なにがって、、そのぅ、、あれだよ。お前の格好を見れば、、、」


 『ああ、脱げって言われたからね』

「ドロテアさま。だいぶ溜まっていたのか、お盛んなご様子。城中に暴れ狂う音がバタバタと響いていたぞ、、、」


 『確かに悲鳴を上げて暴れていた』

「そんなに? まあ、お前のその身体を見れば一目瞭然だが、、、」

テオドールはパチクリとまばたきを始めて言った。


 『テオドール。なにを言ってるんだい? 魔物が出たんだよ』

「確かに。あれは魔物だ」


 『違う!違う!ドロテアのことじゃない。あのな、俺が服を脱ごうとタイツに手を掛けた時、外から石が投げ込まれて窓ガラスが割れたんだよ』


「え?外から?外には誰もいなかったはず。あ、お前らは皆部屋にいたろ?」

テオドールが後ろを振り向いて城の男たちに尋ねると、もちろんだよとばかりにコクリと頷いた。


「で、どうなった?」


 『外の大きな木がザワザワ揺れて、声が聞こえた』

「声?どんな?」

 『年寄の、、、男の声だ。イブレートとか言ってたなあ』



「イ!イ!イブレートッ!」

男たちは一斉に声を上げた。


 『知ってるのかい?』

「ばか!この城を建て、北の皇帝と恐れられたイブレートだ!知らんのか?!」


 『知らん。けどそれならそのイブレートって奴が戻って来ただけのことじゃないのかい?』

「ばか!いつの時代のことかも知らんのか!」

 『時代、、、?』

「イブレートは200年も前に亡くなっているんだ!」


 『え~ッ!! わあお~ッ!』

ラーシュはそこで初めて悲鳴を上げた。


「ドロテアさまは帰ったんじゃなくて逃げ出したんじゃないか~!」


 『、、、確かにそんな素振りだった』


 ラーシュは驚いたものの、ヤンを腕の中でユラユラ揺らすとまたニコニコと笑いながらその子に目をやった。





「マズい事になったかもしれない、、、」

テオドールが腕組みをした。

 「なにがです?ドロテアさまがいなくなって清々するじゃないですか?」

ニルスが言った。


「ドロテアさまがイブレートの亡霊に出くわし、恐れをなして逃げたという事は、、、」

 「やった!もう二度と来ないかも!」


「ニルス。喜んでる場合じゃない! 城壁の外鍵を閉めて逃げたなら?」

 「あ!もう誰も鍵を開ける者がいない!」


「俺たちはこの城から一生出れない!そのチャンスさえ閉ざされたことになる!」


 「ほっとかれたままの袋のネズミだ、、、」


※第41話「ドロテアとタリエ侯爵は繋がっていた」に隠修士のイメージ画(鉛筆のみ)を掲載しました。

宜しかったらご覧になってみてください。

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