69~ドロテア夫人も逃げる!
『早く開けろというにぃ~! ミカルぅ! 何をしておるぅ~!』
「開けろ!私が上手くやる!」
鉄兜のゲルーダは、仲間の賊兵達に指図した。
ガシャン!ポ~ン!
掛けられていた2つの丸太の両脇を抱えた兵。
4人の兵がそれをクイッと上に上げると、扉の脇にズンッと放り投げた。
両扉の入り口は他の2人の兵によって左右に大きく開かれた。
そこにいたのは茫然と立ち尽くす暗闇の6人。
ドロテアを囲むように、ヨーセスとヴィーゴ。それと3人の騎手であった。
開いた扉に気づいた6人は、両足で一斉にピョンと城壁の外に出た。
「はあはあ、はぁ」
『ハア、ハア、ハア、ハア』
6人のむせた息が、白い結晶となって城壁伝いを登っていった。
「どうなされたのですか? ドロテアさま! まさか? 今の声の?」
ゲルーダはドロテアの背中を摩りながら言った。
『はっ?! 今の声! お前らにも聞こえておったのか?!』
「はい!声というかお姿を!」
『姿?なんだ?姿とは?ハアハア』
「開けていた扉から、白い大きな馬に乗って来た男がおりまして」
『男?』
「はい、それはそれは艶やかな衣装。かなり古めかしい出で立ちではありましたが」
『艶やか?古めかしい?』
「そうです。出て来たとたんここにいたミカル達3人に太刀を振り上げるとエイ!と!」
『エイッ? ミカル達は殺されたのかい?』
「いえ、3人とも煙に巻かれて消えてしまいました」
『ひゃ~! やはりそ奴はイブレートさまだぁ! 間違いな~い! イブレートが魔術を使いおったぁ~!』
「それを見て私達も恐れをなしていた所、こちらを睨みつけ、『城壁の扉を閉めろ!』と。
その皇帝のような格好をした男に言われまして、、、ドロテアさま達が中にお出でになられているのは分かりながらも、、」
『ゲルーダ。お前、さっき艶やかで古めかしいとしか、、、皇帝のようなとは?』
「あ、私も今動揺しておりますので支離滅裂に」
『決まった。間違いない。白い馬に跨った皇帝といえば、イブレートだ!伝説のイブレート!その霊だ、、、』
「まさか?!」
『おい!ヨーセス!ヴィーゴ!馬車を出せ!帰るぞ!帰る!』
3人の騎手はバタバタと馬車の曳馬に跨った。
ドロテアが乗った事を確認すると、その馬の尻を鞭で叩いた。
『早く出せ~!』
馬車を引く3頭の馬は宵色に染まった紫の砂煙を上げると、ゴロゴロゴツンと車輪を回した。
「あれ?ない?」
「どうしたヴィーゴ」
「城の男どもにお土産として渡すはずだった、、、東洋の宝物。浜小屋でハラル達から手に入れた物が、、、ヨーセス、持ってないよな?」
「落としたのかい?」
「階段で転んだ時かな?あ~、どういたしましょう?ドロテアさまぁ!」
『もう良いわ!そんな物!どうせラーシュやテオドールに上げるはずだった品。そんなことより今はイブレートから逃げることだ!』
「あとぅ、ミカル達はどこに消えたのでありましょうか?」
『それもどうでも良いわ~!』
パカポコ パカポコ
ドロテア達もまた紫の砂煙に消えていった。
※またまた挿絵を掲載しました。
載せたのは 「67~イブレートの声」
今回は漫画のデッサン風に描いてみました。
宜しかったら是非ご覧になってください。




