67~イブレートの声
「ゲルーダさま!大変です!」
城壁の上、梯子を掛けた縁に攀じ登っていたゲルーダに、下から声がした。
「どうした?」
「あのハラルのバカが、石ころを馬の背に付けたまま城の中に入ってしまったようです!」
「えッ!ではハラルは何も持たずに?」
「そういうことになります!袋に詰めたままここに!」
「おい!その石を私に渡せ!上まで持って来い!早く!」
言われた鉄兜の一兵は、石の入った袋を背負うと梯子をドタバタと駆け上がった。
袋を貰ったゲルーダが城内のナナカマドの根元を見ると、ハラルがグルグルと手を回していた。
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『早く脱ぎなさい』
見ていられないヴィーゴは背を向けて下を向いた。
「脱ぎゃいいんだろ、脱げば」
ラーシュはタイツに手を掛けた。
バッッリーン!
バラバラバラ~!
「あ!」
『あっ!』
「あ~!」
小窓のガラスが割れた。その勢いで鍵の無い窓はバタッと両側に開いた。
飛び込んで来たのは掌大の石。勢いそのまま床を転がると、トナカイの角の下でピタと止まった。
『わあわあ!なんだなんだ!何が起きたっ!!』
「誰だっ!誰か石を投げ入れたぁ!」
『ヴィーゴ!窓の外を!外を覗け!誰だっ!誰だぁ!』
ヴィーゴは割れたガラスの破片をつま先立ちで避けながら、そろ~りそろりと窓際に向かった。
ボン!パッリーン!
すると二つ目の石が投げ込まれた。
窓ガラスを粉々にすると、今度はベッドの上にコロリと落ちた。
「あっぶな~!」
『気をつけなヴィーゴ!まだ来るかもしれない!』
ヴィーゴが後退りすると、ラーシュがタイツ姿のまま窓の前に立った。
「バッカだなぁ。受け取っちゃえばいいじゃん」
ラーシュが外を覗こうとした瞬間、3つ目のまん丸い石が飛んで来た。
「ほいほい来た来た。飛んで来た」
ラーシュは飛んで来た物を両手でポイと受け取ると、ナナカマドの根元辺りにポンと投げ返した。
『ラーシュ!なんて強い男!惚れ惚れするわ!』
「外に誰かいるかい?」
ドロテアと2人、部屋の壁に貼り付いていたヴィーゴが恐る恐るラーシュに聞いた。
ラーシュは窓を開け放つと、薄暗い庭、城壁、空までも見上げた。
「誰もっ」
『そんなことはない! ほれ!ヴィーゴ!お前も覗いて来い!』
ヴィーゴは何故今日に限ってこれが自分の役目だったのかと思いながら、また爪先立ちでラーシュの横。窓際に向かった。
2人が窓から顔を出した時であった。
冷たく凍える空気に乗って来た銅鑼の音のような地響き。
「ん?」
その微風と相反するようにナナカマドの葉がザワザワと大きく揺れた。
「なにか、なにか変だぞ」
恐れたヴィーゴはまた後退りを始めた。
「わしはイブレート~ぅ♪ナナカマドに宿ったこの城の城主イブレートだぁ~♪」
『わっ!ラーシュ!今!外から声が!なんて言った?』
「ん? イブなんとか? ナナカマドに宿ってるとか?」
『風の音ではないかい?ここには誰もいないはずだよ!』
「だって、風なんかほとんど無いよ。間違いなくそう言った。年老いた男の声」
「ドロテアさま!きっと北の皇帝イブレートさまですよ~!」
ヴィーゴが悲鳴を上げた。
『ばか!イブレートは200年前に死んでおる!』
「だから、ナナカマドに宿ってんだろ? お前が悪さをするから怒ったんじゃないの?
襲って来るかもよ?」
ラーシュは坦坦と言うと、また手当たり次第に部屋にある物を、窓の外に向かって投げつけた。
『うっぎゃ~ぁ!』
ドロテアとヴィーゴは部屋の扉をバンッと開けると、一目散で廊下に飛び出した。
『悪魔だぁ~!亡霊が現れたぁ~!』
慌てたヴィーゴ。ドロテアのドレスの裾を踏みつけた。
互いに躓いた2人は螺旋階段をゴロゴロと転げ落ち、階段の一番下、ヤンを抱いて座っていたヨーセスの背中まで吹っ飛ばした。
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「あれ?なにこれ?」
ラーシュは、ドロテアが立っていた場所に落ちていた白い布を拾った。
「あいつぅ。いつの間にズロース脱いでたんた?」
※作中画・童晶
今回は漫画のデッサン風に描いてみました。




