66~タイツも下ろすのだ
ヴィーゴの開けた格子ガラスの小窓。
入ってきた冷たく緩やかな風が、ベッドの脇のゆりかごを僅かに揺らした。
辺りを窺ったヴィーゴは両手でその窓を閉めた。
『ラーシュ。ようやく2人切りになったな』
「は?なにを言ってるんだ?3人じゃないか?!このヴィーゴとやらも一緒じゃないか?」
『ハハッ。こいつは空気のようなもんだ。ただこれからの私達を眺めているだけだ』
「左様。俺は空気。今入って来た風のようなものであります」
「空気がしゃべるかよ、、、」
ドロテアはゆりかごを人差し指でポン!と突くと、その指でラーシュの胸元を刺した。
『さあ、脱げ。夜は短い』
「はいはい。脱げばいいんだろ」
ラーシュは両手を交錯させてプールポワンの裾を掴むと、頭からその服を抜こうとした。
『おい!ラーシュ!それはボタンだ!ボタン!』
その瞬間。胸板の厚さからか、ボタン糸が千切れ、ドロテアの顔にポンポンポン!と3つの銀ボタンが弾け飛んだ。
『あ、痛ッ!』
そのあとを追うように、錨のペンダントも飛ばされ、
その銀細工の先がドロテアのおでこを突いた。
弾けた銀の錨は床に転がった。
「大丈夫ですか!?ドロテアさま!!」
ヴィーゴは蹲ったドロテアのそばに近寄ると、おでこから流れた血を素手で拭き取った。
『痛たたた』
ヴィーゴはそのおでこと頬を撫でた。
「おいおい、ヴィーゴとやら、お前は空気なんだろ? 手出し口出しするんじゃないよ」
「なにぃ~!」
「だから、しゃべるな!空気!」
「ドロテアさまが傷ついておられるんだ!空気などと言ってられるか!」
「ボタンが飛んだだけだろ? 甘えるなよ!」
ラーシュがそう言うと、顔を上げたドロテアはその言葉によろめきたった。
『ほほ、なんて逞しくて強い男。今まで私の相手をした男の中で一番だわ。その身体もその顔も。他の者は皆、震えあがっていたからのう』
ドロテアは撫でていたヴィーゴの手を振り払うと、ゆっくりと立ち上がり、ラーシュの裸の上半身に目をやった。
『フフッ。では下もだ。その締め付けたタイツも下ろすのだ』
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「どうします?アグニア殿」
『んん、これは好都合かも知れぬぞ』
「好都合?」
『ハラル。あそこの窓まで石を投げ込めるかい?』
「あれ?一階のホールの窓の予定では?」
『もしあそこにドロテアがおるなら、恐ろしさを植えつけるには最善。目の前で事が起きるのだからな』
「なるほどッ」
『いくつか石は持っておろうな?用意しとけと言った投石用の石』
「ん?あ、あ~!忘れたぁ~!」
『はぁ~? バカバカ!ハラル!あれだけ言っておいたのにぃ! ここは一面芝じゃ!石ころなど落ちてはいないんじゃぁ~! 肝心な物を忘れおってぇ~!』
アグニアは前掛けのポケットから、ドロテアに貰った水晶を取り出すとハラルの脛をゴンッと叩いた。
「痛ってぇ~!」
大声を出せないハラルは、自分の口を右手で抑えながら叫んだ。
『全く使えぬ奴!』
アグニアはその水晶玉を左手でポンポンとお手玉にすると、どうしたものかと考えた。
「あ、アグニアの婆さん殿。それッ!」
『ん?それ?』
「その水晶玉!」
『あ!』
「それを投げ込んじゃいましょう!」
画・童晶




