65~稀な癖
「ここでございます。ドロテアさま」
ラーシュの部屋に上がってきたのは、ドロテアとテオドールとラーシュ。それにヨーセスとヴィーゴの5人だった。
幌馬車の騎手3人はホールを張っていた。
『この部屋かい?ここは確かトナカイの角が壁に取り付けられていた部屋」
「そうであります」
テオドールはスッとその部屋の扉を開けた。
「おいおい、お前ら!この部屋は俺のものなんだろ?勝手に覗くんじゃないよ」
後ろからヤンを抱きかかえて付いて来たラーシュが言った。
『ハハッ。この部屋はお前のものだが、城は私のもの。私が先に開けて何か問題でも?』
ドロテアの左足は既に部屋の敷居を跨いでいた。
「では、ドロテアさま。あとはこのヨーセス殿とヴィーゴ殿に任せて、わたしは失礼いたします。他の者にはすぐに寝るように伝えてございますので」
『おうおう、テオドールやありがとう。今宵はゆっくりと床につきなさい』
「おやすみなさいませ。ドロテアさま。極上の夢を」
『お前も、よい夢をな』
テオドールはそこまでの役目を終えると、自分の部屋に戻って行った。
「ではドロテアさま。中へ」
ヨーセスがドアを大きく開けた。
「おい、待てよ! 「では中へ」じゃないよ!ここは俺の部屋だ!」
「あ、その前に、ラーシュ! その子は俺が預かる。邪魔になるからな。部屋の外だ」
ヴィーゴがここに乗せろと言わんばかりに両手を差し出した。
「やだよ。初めて会ったお前なんかに誰が預けるかい!」
『ハハッ!噂通り威勢がいい男だな』
ドロテアがそう言って笑った。
『ではヴィーゴ、今日はお前が部屋の中に入って一部始終を見ておるんじゃ』
「ゲッ!」
『ゲッではない。たまにはいいだろう』
「たまにはというか、初めてでございます、、(出た!薄暗がりの癖が)。が、それはいつもヨーセスの役目では?」
『役目など決めてはおらんよ。今日はヴィーゴに見ていてもらう。 その子はヨーセス、お前が預かってドアの外で見張りを頼む。泣き出したらホールにでも連れておゆき!』
そのとき、空気を読んだかの様にヤンが突然泣き出した。
ホギャ~!オギャ~!
「あッ!わッかりましたぁ!今、下へ連れてまいりま~す!」
ヨーセスは嫌だった役目を逃れたかと思うと、ラーシュの手からヤンを奪い、バタバタと螺旋階段を降りていった。
「いい子だいい子だ。いいタイミングで泣きおった。しばらくホールでゆっくりしようや。ヤンちゃん!」
ヨーセスは階段の一番下。その段に胡坐をかいて腰を下ろすと、ニコニコとヤンのホッペを抓った。
「おい! 今の奴、ちゃんとヤンを見ていてくれるのであろうな!」
「ま、お前次第だ。ドロテアさまの言う通りにしていれば手出しはせん」
ヴィーゴは上目遣いにラーシュの顔を見てニヤリと笑った。
『では、ラーシュ、ヴィーゴ。中に入りましょう』
「は??なんで?この男も?」
『私はこのぅ、そのぅ、、、誰かに見てもらってないとぅ、、、そのぅ、、、気持ちが昂らないと言うかぁ、、、』
「稀な癖だな。ま、誰がいようと俺には関係ない。ただ、ヤンにだけは手出しをするな!」
ドロテアとラーシュを差し置いたヴィーゴ。
ズカズカと部屋に入るとベッド脇の小窓の扉を開けた。
そこから外に身を乗り出すと、壁伝いに他の窓をグルリと見渡した。
「他の部屋。すべてランプが消えましたね」
※前話64~「ご一緒に御2階へ」に挿絵を掲載致しました。
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