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64/1501

64~ご一緒に御2階へ

「これはこれは。ドロテアさま。マウリッツへようこそ!」


 『久しぶりだなテオドール!』

「はい。お久しぶりでございます」

 

 『相変わらず美しい男だ』

「ありがとうございます。しかし今日はラーシュでございますね?」


 『ハハッ。お前が相手でも良いのだが今日は初物。ラーシュを見に来たのだ』

「見るだけですか?お味見ではございませんか?」


 

 『ま、そんなようなものだ。で、そのラーシュは?』

「はい、今食事の後片付けを手伝わせておりますゆえ、すぐに連れて参ります」


テオドールは大理石の床をスタスタと広間の奥の厨房に向かった。


 


「楽しみでございますね。ヨーセスやテオドールよりも良顔とはいかばかりか」

ヴィーゴがドロテアと目を合わせ、ニコと笑った。

 『ま、好みは人それぞれだ。皆が良い良いと言ってもな、それだけはわからん』



ーーーーーーーーーー


「ラーシュ。来たぞ。ドロテアさまだ」

 「あ~、来ちゃったのかい、、、」

「そのフィンガーボウルに手を突っ込んで、イワシの油を取って!」


 「はいはい」

ポチャン バシャ


「お前、いやに落ち着き払ってるが不安はないのかい?」


 「は?不安て?」

「これからの事だよ」

 「ベッドに寝てればいいんだろ?」

「は?」

 「たぶん俺、寝ちゃうからさっ」

「ドロテアさまは寝かせてくれんぞ!」


 「いや、寝る」


「あ~まあ良い。ドロテアさまがホールでお待ちかねだ。早くその手を拭け」


ーーーーーーーーー


スタスタスタッ

「お待たせ致しました!これ!小奴がラーシュでございます!」


 

 『お初にお目にかかりますわね。ラーァシュッ』


 

 「おいラーシュ!!顔をあげろ!あげて返事を!」

テオドールが下を向いたままのラーシュを促した。


ラーシュはゆっくりと顔を上げると、ドロテアの顔を一瞥してすぐさまそっぽを向いた。

 

 「おい!ラーシュ!なんだよ!その態度は!」

テオドールはラーシュのあごを右手で掴むとその顔をドロテアの前に向かせた。


 『おいおい、テオドール。手荒な真似はするんじゃないよ』


テオドールは、ラーシュの顎からサッと手を離した。


 『ああ、待て待て。テオドールや。そのままそのまま。顔をこちらに向けといてくれ』


ドロテアはラーシュの鼻先まで近づくと、自分の鼻先をその鼻につけた。


 『いい男だのう。よしよしラーシュや。準備は万端かい?』

ドロテアの発した言葉の息が、空気の塊りとなってラーシュの鼻の奥まで吸い込まれた。

吸い込んだ息が喉の奥、舌の根っこに届くと鉛中毒の錆びのにおいが肺の道を降りていった。


 「万端です!」

ラーシュはその息を吐き出すように大声で返事をした。


 『おやまあッ』

今度はドロテアが下を向いて顔を赤くした。




「では、ドロテアさま。ご一緒に。お2階。ラーシュの部屋へ」

テオドールがドロテアの手を引いた。


 

 『ヨーセス、ヴィーゴ。お前らはその部屋の前で見張りをせい』

「はい!」


 『それから、私の愛しきこの城の男たち。夜も遅い。他の者はもう寝るように言いなさい』

「かしこまりました。お邪魔せぬよう皆、部屋に戻らせます」


 『ランプを消して、ぐっすりと寝るように』


「ドロテアさまはラーシュの部屋。ランプのほのかな灯りの元で、ゆっくりとお楽しみくださいませ」


ーーーーーーーーーーーーー


 「やはり、あの部屋にドロテアが入っていったということですか?」

「他の部屋は灯りが全て消えましたね」

 「薄明かりが好みのドロテアだ。間違いない」

「その部屋がサファイヤリングの部屋とは、、、」


アグニア、ハッセ、ハラルの3人は、ナナカマドの木にもたれ、北側のラーシュの部屋の窓を見つめていた。


挿絵(By みてみん)

画・童晶ワラベ・ショー

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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとうラーシュとドロテアが出会ってしまいましたね。鉛中毒など、この時代特有の描写が描かれており、時代をリアルに感ぜられるところが素晴らしいと思います。また話す息の描写などもまた、いよいよ…
[良い点] あれ、ちょっとドロテア様が可愛いな(笑) やっぱり好みのタイプだったのかな(笑)
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