63~灯りの残った部屋
『ハラルが来る』
「もう後ろにおりますよ」
『おやまあ、いつの間に?』
「幌馬車の後ろをゆっくりと、しずか~について参りました。ハッセ殿もほれ、ここに」
ハッセ。それはアグニアの亭主。浜の小屋でミカルとラーシュたちにサバとニシンを振る舞った腰の曲がった初老の男。
「アグニア。久しぶりだのう。元気にしておったかい? 今な、ハラルと一緒に様子を窺っておったんじゃ。ミカルが小屋に閉じ込められたのを見ておったのでな、参上したわけじゃ」
『元気もなにも、腰が曲がった同士。若い頃も今もお前さんとは目線が同じになりよった』
「ハハッ!夫婦といえど一緒に暮らしたのは数年。わしは世界の海を渡り歩いておったからな」
『会う度、いつも新鮮じゃわい。ハハッ』
「でだなぁ、去年の指輪の話じゃがハラルから浜の漁師小屋で聞いたわい。わしの力が必要と聞いた。何をすればよいのだッ?」
『城の中に一緒に入ってもらうのじゃ』
「中に?」
『中と言っても庭先まで。あとはドロテアが城内から出て行くのを待つのみ』
「ほう」
『ハッセ。喉の調子はいいかい?』
「喉?」
『声を出してもらわねば困るんじゃ』
「なにかの物真似かい?」
『そのままで良いよ。ハッセの声はそのままモノノケ。魔王の声じゃからな』
「?」
『ま、中に入りましょう。ハラルお前もついて来い。え~と、後はぁ、ゲルーダ。よろしくな』
「承知致しました」
『ハッセの声が聞こえたら、梯子を砦の壁に立ててぇ、、』
「いえいえ、聞こえる前には梯子の上に登っていないとなりませんっ」
『あ、そうだ。聞こえてからでは遅いな』
ーーーーーー
アグニアとハッセ、それにハラル。
城壁の扉をくぐった。曲がった腰から首を上げると、そこには巨大な白い城が現れた。
「アグニア殿。凄い城でありますな!美しい!」
『シッ! 声がデカいわ!ハラル!』
「あ、初めて入りましたので、つい驚いて、、、」
『この中にドロテアが生け捕った男たちが住んでおるんじゃ』
「おーぅ!」
『シッ!声がデカい!』
「わしは北向きの部屋と聞いたが」
『お前さん。右のナナカマドの木。そっちが北。そこに回り込めばその部屋の窓が見えるはずじゃ。で北に立ったらその東』
「東から2番めの部屋じゃな?」
『そう。そこまで行ったら、ナナカマドの後ろに隠れるのじゃ』
「俺は隠れるかな?この身体」
ハラルが言った。
『お前なんかよりデカい幹の木じゃ。安心せい』
ーーーーー
『そろ~り、そろ~りじゃ』
3人は庭の石畳を逸れると、ヤギに一声メエと鳴かれたものの、庭を横切り、ナナカマドの木の後ろに回り込んだ。
「東から2番目というとぉ、、、あの部屋じゃな。どの部屋も灯りが点いているから一目瞭然じゃ。目の悪いわしにもよ~くわかる」
ハッセは指で、窓の数を数えた。
『こんなに庭先まで明るく照らされては、、、』
アグニアは少し困惑した。
「あれ?アグニア殿。一つずつ消えていきますよ。部屋の灯りが!」
ハラルが言った。
『あ、本当じゃ。どうしたことかい?』
「真っ暗になってゆく、、、」
しかし、ひとつだけ灯りが消えなかった部屋があった。
東から2番目。ラーシュの部屋であった。
※本日、初めてパソコンツールで絵を描いてみました。
やり方が分からず苦労してしまい、アナログ画(いつもの鉛筆画)と変わりませんでした。
上達するまでご勘弁を。
けど、私の場合とこの小説。アナログの方がいいかな。
掲載したのは試し書き。
51話の「引き出しから大きな指輪」
試し書きなので指輪の絵だけです。トホホ。




