61~白夜の魔物は薄明かりがお好き
『暗くなってきたが、日が沈まないな。薄っすら星は出ているようだが』
ラーシュは厨房の小窓から外を覗いた。
『昨日まで満月が出ていたというのに』
「白夜だよ。これからそんな時期を迎える」
ニルスはラーシュに寄り添うように同じ小窓から外を見た。
『白夜ってなんだっけ?』
「夜でも昼間のような明るさってわけさ。今はまだ少し暗くはなるが、もうしばらくすると夜と昼の見分けがつかなくなる。お前が住んでいた辺りからベルゲンの辺りまでじゃそんなに見られないがな」
『数年に一度、そんな時期があった』
「白夜の始まりには、魔物が出ると言う伝説は聞いた事があるかい?」
『知らぬ』
「俺は、人形でそれを芝居にしたさっ。ここに来る前から知っていたからなっ」
『で、いたのかい?ここに。魔物は?』
「いた。たぶん今夜来る」
『おいおい、冗談を言うなよ。今夜って。逃げなくてもいいのかい?』
「大丈夫だ。逃げるとしたらぁ、、、お前だけだな」
『俺だけ?そりゃあ魔物は怖い。お前らが逃げなくても俺は逃げるよ』
「無理だ。城壁の外には出られない」
『城の中に入って来るのかい?』
「まあ良い。今にわかる。それよりもニシンが焼けたようだ。ビスコットに挟んで皿に盛ってくれ」
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ガチャリ
『ミカル。開いたか?』
「はい!ドロテアさま!」
『ではヨーセス。ヴィーゴ。先に入れ』
「丁度良い、薄明かりの晩でありますね」
『この白夜の始まりの暗さがたまらんのだ。見えるか見えないかのな。ハハッ』
扉をくぐったドロテアは城を見上げた。
ボンヤリとではあるが、それぞれの部屋から灯りが漏れていた。
それは、ドロテアを迎え入れる為の歓迎の証し。部屋の窓脇に置かれたランプが夫人を誘っていた。
『流石わかっておるな。テオドール』
「新入りのラーシュが入ったので、いつ何時と用意していたのでございましょうなっ。いつもの事ですっ」
『お、テオドールを褒めたら妬いたのかい?』
「ま、そういうことです」
城壁の扉から低く刈られた芝。元々が伸びぬ芝であったが、ドロテアが躓かない様にするためか、この城の男たちによって更に低く整えられていた。
ドロテアとヨーセス。それにヴィーゴと3人の騎手は、2本のナナカマドの間を抜けた。
ヤギにメエェと鳴かれると、目の前は城の入り口。獅子型の取っ手の付いた扉。
6人はその手前にある5段の大石の階段を上った。
『さあ呼べっ!テオドールを呼べっ!』
「ドロテアさま。呼ばなくても開いていますよきっと。テオドールのことです、開いていたらまた褒めてやってください」
『あらヨーセス。また妬いてくれるのね?』
「はいはい」
ヨーセスはその言葉に振り向きもせずに答えると、獅子の口に手をやった。
ガチャ
「ほらね。やっぱり開いてます」
バタン!
『おーい! テオドールぅ! いるかぁ!』
ドロテアが半分開いた扉から叫んだ。
(逃げられぬのだ。居るに決まっているだろ)
ヨーセスはドロテアの背で笑った。
※本日の絵は。
第5話かかあ天下に掲載。
ドロテアの目玉だぁ!!
宜しかったら是非ご覧になってください。




