6~ナナカマドの実
「この女の亭主なのですが」
「ほ~」
「それはそれは、ドロテアさま好みのいい男でありまして」
「ほう」
「農夫でありますゆえ、多少日焼けをしていましてぇ、、ドロテアさまの色白好きとは、ちょいと違いますが。髪は透き通るような淡い金髪。顎には薄っすらと金の髭。ベストからは飛び出るような肩と二の腕がガッシリと」
「その男はまだそこに?バルデにおるのかい?」
「はい。ラーシュという男であります。威勢のいい男でありまして、この女を連れて来るのに難儀。ちょうど小奴が赤子を抱いて乳を吸わしていましたので、かっさらって。ま、人質みたいなもんですわ」
「で、その赤子は?」
「はい、バルデの港町に放って来ました。」
「捨てて来たのかい?」
「いえいえ、丘を下って来る途中。その赤子の巻布を剥いだら」
「剥いだら?」
「股間にナナカマドの実のような物がついてまして。チョコンと」
「ナナカマドの実? チョコンと?」
「はい。赤い実が」
「男の子ってわけかい?」
「その通りでございます」
「で?」
「はい、放ったと言いますか、バルデの漁師のババア。鉤鼻のアグニアに」
「預けて来た?」
「預けて来たと言いますか? 家の扉の前に置いたらババアが出てきましたので、きっとラーシュという農夫が通りかかると思うから預かってくれと。ま、赤子はこの女を連れて来るための手段でありましたので」
「綺麗な子かい?」
「それはそれは真っ白な肌。この女のような栗毛色の髪。顔立ちもそっくりで可愛らしい赤子でありましたよ」
「おい、お前。そっくりで可愛いとはどういう意味だ!お前もこの女を好いておるのだな!」
「あ、間違えました。ドロテアさま似の可愛らしい、、」
「ばか!我の子ではないわ!!」
「あっ、ちょっとお待ちくださいな。それはヤンのことですか?」
アデリーヌはドロテアと兵の会話を遮った。
「お、あの子はヤンというのかい?」
「そうです。あなた達はヤンを捨てたのではないのですね?」
「ああ、無事にお前の亭主のところに戻っておると思うが」
アデリーヌは泣き出した。
「おぉ、良し良しアデリーヌや。泣くでないぞ。ご亭主と赤子は無事だそうだ。良かったじゃないか。良し良し」
ヘルゲ男爵はそう言うと、落ちていた薄皮の白樺でアデリーヌの涙を拭き取った。
「綺麗な髪だこと」
頭巾の上から頭を撫でた。
「では、お前ら!もう一度バルデに向かえ!わかっておるな。ラーシュとその赤子、捕らえてマウリッツの城だ。」
「しかしドロテアさま。ラーシュは簡単について来るでありましょうか? 無理やりはシカと難しい」
「行先など言わんてよい。ただついて来ればアデリーヌの身が助かるかもしれぬと言えばよい。今はその魔女裁判の真っ最中だと。ハハッ」
ナナカマドの実
画・童晶




