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57/1501

57~来た!ドロテアさま!

挿絵(By みてみん) 

画・童晶(ワラベ・ショー)


 その夜の事だった。

深く沈み込む赤い日。落ちきれない太陽が地平線の上に半分顔を出し、ユラユラと揺れていた。

北東バルデの日は長い。まだ薄明かりの残る宵であった。


 夏場とはいえ急速に冷え込む極北の大気は、薄っすらと生えた芝に見る間に霜柱を立てた。


砕かれた溶岩の地面には、夜の日に照らされゆっくりと流れる赤いもやが立ち始めた。


 ゴリゴリ ジャリ ジャリン ゴツゴツ


車輪が霜柱を踏みつけて行く音。

赤い靄が、砕けた銀の氷を包み込みながら両側に開いていく。


ーーーーーーー


「ミカルぅ~!!聞こえるか! きっとドロテアさまの馬車の音だ!」

 「聞こえる、聞こえる。お出でになった」

城壁の外の小屋。ミカルと連れの2人は冷たく変わる空気の中を、足を震わせ待っていた。


 「鉄兜の奴らは?」

「もう扉の前に集結してる!」

 「いつの間に?」

「本当に口も開かねば、音も立てぬ奴らだ」



 ミカルたち3人と馬上の鉄兜の20人。

城壁扉の前に立った。


遠く地面の下を這う赤い靄。少しずつ星を生み出す濃紫に変わりつつある空。


 幌の周りにいくつもの鯨油のランプをたずさえた黒光りの馬車は、みるみるその影を大きくした。

その後ろは二手に割れながら消えてゆく靄。


 

 城壁の扉の前。道をつくるように両側に10頭ずつ。

騎乗した鉄兜たち。

対面した馬の吐く息が、ドロテアを向かえるようにその道を温めた。


ーーーーー


「ドロテアさま。城の壁が見えて参りましたよ。遠くに馬の息が白く沸き立っております」

 『おうおう、大袈裟な出迎えだ』


「ドロテアさまのご入場ですからね。それに一年ぶりでありますから」

ヨーセスは次々と面前に迫る靄を、手で払い避けながら言った。


 『ミカルたちはラーシュとやらを上手く城に仕舞い込んだであろうな?』

「あの者達がおるということは、たぶん」


 『どんな男であろうなぁ?』

「あ、そんなことを申されますと、私。嫉妬してしまいますからおやめください」


 『ハハッ。妬きもちくらい妬けと言ったから言ってるんであろう?』

「いえいえ滅相もございません。なっヴィーゴ」

「当然でございます!」



「あっ!そういえば、、、どうするんですかね?」

 『ヴィーゴ。なにがだ?』

「この下」

 『下?』


「アグニアの婆さんです」

 『ああ、まだこの下のバケットにおるんだったな。オーロラを見たいとか言っていたが、まっ放って置けばよい。城の中に入れるわけではないし、それにここには沢山の護衛がいる。ちょいとしたいたずらも出来ん』


「それもそうですね。いてもいなくても関係ないババアですし」


 『そんなことより、ラーシュだ。ラーシュを見たいのだ。そのためだけに遥々(はるばる)来たのだからな』



 「到着~!」

 「ドロテアさまのご到着で~す!」


幌を引っ張って来た3頭の馬。手綱を引かれ歩を止めた。

星空に変わった空。ひづめの音が止まった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 北欧ならではの情景描写がとても素晴らしかったです。日の長さや馬のはく息なども描かれていて場面の中にすっと入っていくことができました。また、ドロテアやヨーセス達のやり取りも軽快で良かったと思…
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