54~サファイヤリングの隠し場所
これより5年ほど前からだった。
ドロテアはマウリッツの城から、イブレートが置き去りにした何百という宝物を持ち出した。
極東バルデはほとんどが雪と氷に覆われている。夏場の数か月に一度だけ、アグニア夫婦の率いる海賊に運ばせた。
そのお宝の多さに、強奪は5年の月日を要した。
ドロテアは全ての調度品と装飾品を館に仕舞い込んだ。しかし一つの城の多くの品々は薪小屋にまで溢れかえった。それらに手を焼いた男爵夫人は、2年前にお気に入りのヨーセスに店を出すよう命じた。
去年の夏。マウリッツ城からの最後の品々を運び出した時のことだ。
ドロテアはアグニアの住む漁村に立ち寄った。
『アグニア!アグニアはいるかい?』
「あれ、おやおや。ドロテアさま。今日が最後のお運びですね」
『そうだ。凄いだろう?持てるだけ馬の背に積んだ』
まだ幌馬車を持っていなかったドロテアは10頭の馬の背中にそれらを結び付け、お気に入りの取り巻きとアグニアの支配下の海賊達に運ばせていた。
『でな。ほれ、これはお礼だ。お前の賊には長い間世話になったからな』
「おや、珍しい」
ドロテアは馬の紐をヨーセスに解かせると、アグニアに青い宝石箱を手渡した。
「あれま、美しい箱だことっ」
『開けてみろ』
パカッ
「、、、空ですか」
『ハハッ。箱だけだ!私はな、もっとピカピカ光っておる物が好きなのだ。それはラピスラズリといってな、どうやらエジプト辺りの物らしいが興味はない。くれてやる』
「(バカにしおって)あらあら、これは有り難き幸せ。遠慮なく頂きます」
『では、また。今度は男漁りに来るからな。ハハッ』
「ドロテアさまも漁るお人。漁民というわけですね」
コチン!
アグニアはドロテアに頭を小突かれた。
ドロテアが戻った後のことである。
200年以上前の宝石箱。中は隅々にまで埃や蜘蛛の巣が貼り付いていた。
アグニアはそのゴミをツンツンと剝がしている時だった。
赤いベルベットの中敷きがパラと捲れ上がった。
「おや、なんだろう?」
その下には、八折りにされた紙が入っていた。
四隅はボロボロの、薄茶に焼けた古い紙だった。
「なにか書いてある」
アグニアはそれを取り出して広げた。
羊皮紙に、煤とオリーブオイル、それに蜂蜜を混ぜた古代インクで書かれていた黒文字と宝の簡素な絵。
「なになにぃ? んん? これはお宝の一覧のようだ」
それは特に高価な品ばかり数点。値段と持ち込んだ国、隠した場所までが記されているイブレートの覚書であった。
アグニアはこの城の宝については単なる運び屋。しかし、手下の海賊達がドロテアの命令で城から持ち出す際に、宝の品々を一品ずつ書き出させていた。
彼女はすぐさま首領のハラルを呼び付け、丁寧に照らし合わせた。
「アグニア殿。一つだけ、このぅ、、サファイヤの指輪というのが見当たりませんが」
「運んだ覚えはないのかい?」
「はい。絵を見てもこのような指輪はぁ、、、」
「どれ?どれだい?」
「この紙の一番下に書いてあるやつです」
「ほほう、これかぁ、、、えっ!一番高価な物ではないか! 他の物より桁が2つも違う!」
「ホントだ!」
「隠した場所が書いてあろうが?」
「北向きのぅ、え~とぉ、2階。東から2番目の部屋。ベッド。箪笥。一番下」
※本日は、2点挿絵を掲載致しました。
1,27話~「アデリーヌとキルケ」
2,50話~「ステッキぶんぶん」
です。宜しかったら是非ご覧になってみて下さい。
「これで絵のストックが無くなった。また新たに描かねば、、、」




