表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/1501

53~部屋の物は俺の物

 テーブルの上に撒き散った口の中でつぶされたタラのパイ。

それを見た、一番遠い席の男の子が嗚咽した。

 「うえ~!汚っな~!」


テオドールがラーシュの肩を叩きながら声を掛けた

「落ち着け。こんなもの食えたものじゃないというのは分かるんだが、ほれ、お前には赤子がいるではないか。今だってミルクをくれたじゃないか。食わなければ死ぬ。死ねば妻にも会えんだろ? たまたまなのだ。生きるために食べる料理がたまたま高級料理なだけなのだ」

 

それを聞いたラーシュはしばらく押し黙った。

 

 『ヤンがいるのもわかっている!しかしこれは全てドロテアのためなんだろ?』

「ああ、代償は大きいが、、、生きていかねばならん。残りを食べろ」

 『代償って?』

「、、ひとのことだ、、、」


ラーシュはしぶしぶフィンガーボウルに指を入れた。



 『テオドール。お前に聞きたい事があるんだが、いいかい?』

「ああ、なんだ?」


 『俺の部屋にある物。パシネットやコイフー。それに箪笥や羊毛のベッド。あれらは誰の物だい?』


テオドールは口からフォークを抜き取ると卵のピクルスをムシャムシャしながら返事をした。

「ぜんぶお前の物だよっ」

 

 『俺が自由に使えるって意味かい?』

「使える?もちろんだが、使えると言うかお前個人の所有物だ。あの部屋はドロテアからの贈り物ってわけさっ」

 『ここにいる皆んなも?それぞれ?』

「もちろんっ。部屋はお前の持ち物だ。もちろん中の調度品もっ」


 『ドロテアは欲がないのかい? なぜこんな高そうな物を城から奪い獲っていかないのだ?』

「お前には高級な物かも知れないが、ドロテアにとっては残り物。カスみたいな物ばかり」

 

 『残り物?』

「ああ、ここにあった優れたお宝は皆ドロテアが持って行ったようだ。持ち運べる物だけのようだが。だからここに有る物はドロテアの要らぬ物ばかりということさっ」


 『ほ~。ではあの部屋の中にある物は全て俺の物ということだな?』

「まっ、そういうことだ」

 

 『小物まで?』

「ドロテアは洗いざらい奪っていったんだ。どこを探したってもう何もないさっ。パシネットやコイフーだって戦争でもなければ無用の長物だしなっ」


 『、、、ちょっと食べる気が出て来た』

「なんで?」

 『いや別に、なんとなく』


 ヤンを懐に抱いたまま またパイを食べ始めたラーシュは、テーブルとの距離が遠い為か、ポロポロとその赤子の顔の上にパイ皮をこぼした。

 『またこぼしちまった』

ラーシュがヤンの顔を覗くと、顔に付いた細かい食べカスが痒いのか、しかめっ面をしていた。


(アデリーヌは毎日こうしてヤンを抱いて食べていた。食べカス一つこぼさずに)



「ラーシュ。食事が済んだらこれに着替えてくれ」

ニルスがラーシュの着る服を重々しく抱えていた。

※第16話「ヨーセスとドロテア」に、この小説のキャラクター初の顔出し!(アグニア婆さんはぼやけた横顔の絵でしたので)

最初の登場はなんと!イケメンハンサムボーイ!『ヨーセス』でございま~す!

宜しかったら是非、第16話覗いてみてください!あくまで私のイメージですが、、、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラーシュの意味深な確認が、これからの波乱を予感させてくれて楽しいです。ヤンのお顔を見てアデリーヌとのことを思い出す描写もここまで仲睦まじく暮らしてきたことを思い起こさせてくれて良かったです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ