53~部屋の物は俺の物
テーブルの上に撒き散った口の中で潰されたタラのパイ。
それを見た、一番遠い席の男の子が嗚咽した。
「うえ~!汚っな~!」
テオドールがラーシュの肩を叩きながら声を掛けた
「落ち着け。こんなもの食えたものじゃないというのは分かるんだが、ほれ、お前には赤子がいるではないか。今だってミルクをくれたじゃないか。食わなければ死ぬ。死ねば妻にも会えんだろ? たまたまなのだ。生きるために食べる料理がたまたま高級料理なだけなのだ」
それを聞いたラーシュはしばらく押し黙った。
『ヤンがいるのもわかっている!しかしこれは全てドロテアのためなんだろ?』
「ああ、代償は大きいが、、、生きていかねばならん。残りを食べろ」
『代償って?』
「、、ひと夜のことだ、、、」
ラーシュはしぶしぶフィンガーボウルに指を入れた。
『テオドール。お前に聞きたい事があるんだが、いいかい?』
「ああ、なんだ?」
『俺の部屋にある物。パシネットやコイフー。それに箪笥や羊毛のベッド。あれらは誰の物だい?』
テオドールは口からフォークを抜き取ると卵のピクルスをムシャムシャしながら返事をした。
「ぜんぶお前の物だよっ」
『俺が自由に使えるって意味かい?』
「使える?もちろんだが、使えると言うかお前個人の所有物だ。あの部屋はドロテアからの贈り物ってわけさっ」
『ここにいる皆んなも?それぞれ?』
「もちろんっ。部屋はお前の持ち物だ。もちろん中の調度品もっ」
『ドロテアは欲がないのかい? なぜこんな高そうな物を城から奪い獲っていかないのだ?』
「お前には高級な物かも知れないが、ドロテアにとっては残り物。カスみたいな物ばかり」
『残り物?』
「ああ、ここにあった優れたお宝は皆ドロテアが持って行ったようだ。持ち運べる物だけのようだが。だからここに有る物はドロテアの要らぬ物ばかりということさっ」
『ほ~。ではあの部屋の中にある物は全て俺の物ということだな?』
「まっ、そういうことだ」
『小物まで?』
「ドロテアは洗いざらい奪っていったんだ。どこを探したってもう何もないさっ。パシネットやコイフーだって戦争でもなければ無用の長物だしなっ」
『、、、ちょっと食べる気が出て来た』
「なんで?」
『いや別に、なんとなく』
ヤンを懐に抱いたまま またパイを食べ始めたラーシュは、テーブルとの距離が遠い為か、ポロポロとその赤子の顔の上にパイ皮を零した。
『またこぼしちまった』
ラーシュがヤンの顔を覗くと、顔に付いた細かい食べカスが痒いのか、しかめっ面をしていた。
(アデリーヌは毎日こうしてヤンを抱いて食べていた。食べカス一つ零さずに)
「ラーシュ。食事が済んだらこれに着替えてくれ」
ニルスがラーシュの着る服を重々しく抱えていた。
※第16話「ヨーセスとドロテア」に、この小説のキャラクター初の顔出し!(アグニア婆さんはぼやけた横顔の絵でしたので)
最初の登場はなんと!イケメンハンサムボーイ!『ヨーセス』でございま~す!
宜しかったら是非、第16話覗いてみてください!あくまで私のイメージですが、、、




