51~引き出しから大きな指輪
「ラーシュ!起きろ!朝だ!」
マウリッツの城。部屋に鍵は無い。
バタと扉を開けたのはニルス。
「もう朝飯の支度はできている。下へ降りて来い。ヤンも一緒に」
夜中は眠れなかったラーシュだったが、明け方近くに眠りについていたようだった。
目を擦りながら、ベッドから身を起こすと、キョロキョロと辺りを見回した。
天井にはロウソクランプのシャンデリア。壁にはトナカイの角、パシネットにコイフー。
ラーシュは夢であることを期待したが、昨夜見た飾り物と同じ。やはり古城の一室だった。
ラーシュはムクと起きると、伸びをしてゆりかごを覗いた。小さな寝息が聞こえた。
『ヤン。朝飯だとよ』
その声にヤンは睫毛を開き、ホギャ~ホギャ~と泣き出した。
『おー、おう。お腹が空いたかい?』
ラーシュがヤンをゆりかごから取り出すと、その網目から湯気を出してお小水が漏れ出した。
『あー、あ~、』
抱きかかえたラーシュの腕にも滴が這った。
(このまま下へは降りて行けないな、、、しかし拭く物がない。ニルスは下へ行ってしまったようだし)
ラーシュは部屋の中を見渡した。
ベッドの横に一番下だけが開きっぱなし。
3つの引き出し付きの小さな箪笥があった。
『この中に何か入っていないかな?』
ラーシュはヤンを一度ゆりかごに戻すとその中を漁った。
パカンッ
『空か、その下も空。おっ、なにか引っかかるぞ』
ラーシュは屈みこむと一番下の引き出しの奥を覗いた。
『ん?ブランケットのような物があるぞ。ええい、これで拭いちまえ』
それは白いシルクの地に銀の蔓の刺繍を施した、まさしく貴族でしか持ちえない布。
その少し厚手のブランケットは八折りに畳まれていたせいか、引き出しの奥で引っかかっていた。
『ま、いいや。わかりゃしねえ。また畳んで入れて置けばいいさっ』
ラーシュがそれを引き出しごとエイッ!と引っ張り出した時だった。
パカッ
ズルズル
ポトンッ
コロッ
『あれっ!なんだこれは?』
それは床に転がると丸く大きな光を放った。
細工を施した金の大きなシャトン、その上に鎮座する中石は、ウズラの卵大の赤紫のサファイヤ。取り巻いている細かな脇石は琥珀、ダイヤ、エメラルドを繰り返す。固定するプロングまでもが金。
フープにはどこかの皇帝の横顔を模した白く細密なカメオ。
『誰かの忘れ物?』
大きなサファイヤの指輪であった。
ラーシュはそれをもう一度引き出しの奥に仕舞い込むと、左手に持ったシルクのブランケットで垂れたヤンのお小水を拭いた。
チャチャと拭き終わると、濡れたままわざと丸めて引き出しに押し込んだ。
指輪はその奥に仕舞い込まれた。
『ニルス殿ぅ~!今行きま~す!』
ラーシュはヤンを懐に抱えると、螺旋の階段をパタパタと降りていった。
画・童晶
初めてパソコンで描きました
※シャトン
宝石を乗せる土台
※ブロング
宝石を固定する鍵爪
※フープ
指輪の輪っか(リングの部分)




