50~ステッキぶんぶん
「キルケ、どうする?」
「待つしかないよ。ヘルゲのことだ、落ち着いて待っていられるわけがない」
「今は特に。アデリーヌのことで頭がいっぱいだからな」
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「あいつら本当に戻ってくるのかぁ? もしかしたらお金を置いて、またアデリーヌを捜しに行ってくれておるかもしらんなぁ」
ネズミ嫌いのヘルゲは店の中にも入れず、石畳通りの上で貧乏ゆすりをしながら顎髭を撫でていた。
「もしかしたら、アデリーヌを見つけてわしの館に戻っておるかも知れぬなあ、、、」
ヘルゲは左の掌を右の拳でポン!と叩いた。
「こうしちゃおれん!よし!帰ろう!」
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「イワン。ヘルゲがこっちに向かってくる。隠れろ!」
2人は乾物屋の路地深くにサッと身を潜めた。人一人程の幅しかない建物と建物の間。奥から見えるわずかな隙間。その前をヘルゲが通り過ぎるのを待った。
「通るかな?帰るかな?」
「あッ」
すぐであった。その隙間にヘルゲの山高帽の影が映った。
「帰るな」
「やっぱり、落ち着いてられない男だ」
キルケとイワンは路地の奥から乾物屋の壁に背中を当てながら前に進むと、ドロテア通りの左手をそ~っと覗いた。
「館の方に戻るみたいだな」
「ステッキをブンブン回してる」
「あれはイライラしている証拠。いつもそうさッ。で、左手に持ち替えてまたブンブン」
ブンブン
「ほんとだ、、、」
「よし!見えなくなった!」
「行こう!」
2人は駆け足でヨーセスの店に向かった。
ドンドン! どんどん!
「お~い!トールぅ!いるか~い!」
「開けてくれ~!」
ガチャガチャ
「あれ?鍵が開いてる」
「開いてるってことは、トールとヘルゲは、、、」
「会ってるかも!」
「まずい!」
バタン!
「トールぅ~!おーい!」
バタバタバタ
地下の部屋からトールが上がって来た。
「なんだよ。ヘルゲかと思った。遅かったなぁ。待ちくたびれたよ」
「悪い悪い」
「ヘルゲもお前らの事ずっと待っててさッ。店から離れないから緊張し放し。いつまた入って来るかと」
「えッ!一度入って来たの?」
「もちろんだよ。お前ら戻って来るのが遅いから、外の様子を窺おうとちょっと扉を開けたらそこにいたんだもん」
「店の中を見られちゃったってこと?」
「ん?なにか問題でも?? ヨーセスに言われてたんだろ? 客が来ること。ヘルゲにはそう伝えたよ」
「あ、あ、そうだったな」
(まッず~い)
「でヘルゲはなんて言ってた?」
「こんなに売れたなら小遣いを上げてもらわねばと」
「それだけ?地下のアデリーヌは?」
「地下にはネズミがわんさか出ると言ったら、外で待つってさッ」
「拍子抜けだな、イワン」
「ああ、、、大バカ過ぎる」
画・童晶
道の奥にステッキ振り回してるヘルゲが、、、




