47~マウリッツに続く街道
マウリッツ城に続く街道。
イブレートが城主としてこの地域を領地にしていた時代に、経済上の目的で敷かれた道。
農作物の耕地面積を削らない様、村人の住まない地域を走らせた。
もう一つの理由は、街道沿いに農地があるとそこを行き交う馬やロバに農作物を食べさせて良いというこの国の法律があった。地元の村人の馬ならいざ知らず、ここを通る他国の者の馬に食べられるのは癪に触る。イブレートは街道を耕地から離れた場所に造った。
つまりここを通る他国の馬車や、荷を背負わされたロバの持ち主達は、その引手の餌の干し草を積んでこの街道を通過しなければならなかった。それは物品よりもガサを載せた。
後に、城主イブレートは得体の知れない者達に城を襲撃されて滅んだ。
ここを住処にと考えていた海賊たちによるものだと聞く。
それからというもの、行き交う行商人のほとんどがこの海賊や盗賊に物品を強奪され、この地での商売を諦めざるを得ない顛末となった。
わずかに居を構えていた村人達もその恐怖に慄き、次々とこの地を去っていった。
イブレートの街道は荒れ果てた。
それから200年余り。
北東バルデのマウリッツの城までを領地としたヘルゲ男爵。
ただ使えぬ土地を国王から頂いただけであったのだが、その街道を変えたのはドロテア。
北の果て。誰も分け入ることのなくなったマウリッツ城を、自分の勝手気ままな秘密の道楽の城としたかったドロテアは、その周辺に住んでいた海賊達に金を与え、道を整備させた。
道の全てに白樺の樹皮を敷き詰めると、そこは寒さを和らげる防水の道。
その樹皮を掻い潜り、土の下から少しづつ生えてくる芝とぺんぺん草。
白樺の樹皮がその道をなだらかな物としたうえに、馬やロバの餌まで生えてくるという一石二鳥の街道と化した。いわゆるグリーンリーフと呼ばれる草屋根の手法だ。
それは行商人のためでも、ここにわずかに住み続けている村人のためでもない。
我が身とマウリッツを繋ぐためだけの道であった。
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マウリッツ城の城壁の中から、ラーシュを置き去りに飛び出して来たミカル。
小水を済ました。
その水は石の壁を瞬く間に凍らせた。
「さてと、ひと安心。寝るか」
城壁の扉から、その壁沿いを西に回り込むと、そこに簡易な石造りの小屋が建てられていた。
もちろんこれもドロテアが造らせたもの。
薪と暖炉が備え付けられた小屋。
妻を魔女として捕らわれ、残された夫たちを収監する為の運び屋ミカルと連れ2人。
その者達が寝泊まりをする為だけに造られた小屋。
なぜ彼らは引き帰らずここに泊まるのか?
それは、時機に来るであろうドロテアを待つため。
ドロテアが入城すれば、彼らは運び屋から守護兵に変わる。
その夜一夜を、守るためだ。
画・童晶




