46~海賊・首領はマルク
ヨーセスの店の調度品、宝飾品。
数々の宝をすべて盗んで行ったのはベルゲンの海賊。
それは嘘ではなかった。
このヨーセスの店の噂はそこで知った。ただこの海賊、タリエ侯爵とドロテアが密接に繋がっていることは知らなかった。
『おうおう、戻ってきたか。どれ見せてみろ』
そう言ったのはマルク。この海賊の首領。まだ若い男だった。
ヨーセスの店に来たリーダーの男の名はオード。
「マルクさま。こちらの船室に」
オードは錨の彫刻を施した木のドアを開けると、その部屋にマルクを誘った。
『お~!これはぁ!』
「どうです、マルクさま。見事な品々でございましょう。とくとご覧ください」
『凄い!よくやった!』
マルクはそのひとつ、金銀で細かく細工を施した髪飾りに手をやると、頭の上に刺した。
『どうだ?オード』
「マルクさまのそのお綺麗なお顔立ちには、とてもお似合いでございますよ」
マルクはオードに近寄るとその肩をギュっと抱きしめた。
『これでまたひと儲けができるな』
「ひと儲けどころか、大儲けでございましょうな。ハハッ」
若い首領はオードの頬にキスをした。
『しかし、こんなにいとも簡単に強奪できるとはな。さすがオード』
「ちょろいもんでした。タリエ侯爵の名前を出した上に、ヨーセスという店主もおらず、代わりのアホ共がカバンの中も確認せずにわたしたちに、どうぞどうぞ!と」
『ではドロテアもいなかった?』
「もちろんです。その為の朝駆け。ドロテアはそんなに朝早くは出かけませんからな。といいますかでかけられない」
『なぜ?』
「なにしろ化粧の時間で半日とか」
『俺は会ったことがないが、そんなに醜い女なのかい?』
「いえ、わたしもないのですが、心はもっと醜い奴だそうでございますよ」
『タリエ侯爵さまにはいくつか貢がねばならない』
「この海域で私達が仕事できるのもタリエ侯爵さまの黙認のおかげ。それにはまた、この中のいくつかを差し上げなければなりません」
『小物入れを欲しがっていたと。なにか良いものはないかと言っていた』
「でしたらこの、色とりどりの宝石を埋め込んだ木箱はいかがでしょう。底には見事な彫り物をしてございます。それとこの青銅に金を散りばめたペンダント、、それからぁ、、、」
『ひとつでいい。そこまでする必要はない。しかもこれらは中々手に入らない品々。売りつけるなら侯爵より公爵さま。あるいはその上の大公様。それだけ貴重な品だ。きっと欲しがる。そうなればわたしたちが航行できる範囲も更に広がる。タリエにはひとつでいい。いままで充分差し上げている』
「わかりました」
『では出発だっ!帆は立てたかぁ~! 風に乗れ~ぇ!』
マルクのその声にオードは甲板に出て、両手を高々と上げた。
「お~!」
港には6台の荷車が転がっていた。
タリエ侯爵
※本日は都合により、お昼に投稿いたしました。




