45~ちゅうッ ちゅうッ アデリーヌ
バタン!
『ん? あっれ~?! 何これ? 店の中、空っぽ。箪笥は? 指輪は? 絨毯は? 何にもない』
「いや、そのぅ」
『あれあれぇ。もしかしてお前、、、』
「はッ! 滅相もございません!」
『では、どうしたというのか? 』
ヘルゲは両腕を後ろに組みながら、壁と空ケースの間をウロウロと、行ったり来たりを繰り返した。
「それはですね。今朝方ベルゲンのタリエ侯爵様の使いの一行が、船で乗りつけましてですね」
『タリエ侯爵の使い? わしは聞いとらんぞ?』
「この中の品々を全てお買い上げになって、、、」
『はぁ? だ、か、ら! わしは聞いとらん!』
「キルケとイワンがそう言ってました。ヨーセスから頼まれたって。ドロテアさまも御存知かと」
『あいつら~、わしを出し抜いて勝手なことを、、、そんなに売れたんなら少し小遣いを上げてもらわねばなっ。 で~その金は?金はもらったんだろ? どこへやった?』
「キルケとイワンが、、、ヨーセスの婆さん家って言ってたかな?」
『なぜ、わしの家ではないのだ?』
「いやぁ、それはわたしにも分かりません」
『だよな。しかしぃ、、、ん?ん? て事は、あいつらアデリーヌを捜しておらんって事じゃないか!』
「わたしに怒られましても、、、」
『それにだ!お前もお前だ! なにが「今から店を開けるとこでした」だ! とっくに開けておったんではないか! 悪いがな、ここでキルケとイワンを待たせてもらう。地下にテーブルと椅子があったであろう? そこで待つ』
ガタン!ゴトッ
『んッん~? なんだ今の音?下に誰かいるのか? 地下室から聞こえたようたが?』
「あ、あ、あのぅ。え~と、地下の部屋にはネズミがワンサカいましてぇ。ヨーセスがそこでいつも食事をしてましてぇ、、ボロボロ食べかすをですね、、それをチョロチョロガリガリ、ガタゴトと」
『ゲッ! ネズミぃ~!!』
「ですから、今から店を開けると言うのはネズミを追い出すために開けるという意味でして」
ちゅうッちゅうッ
『うあ! ホントだぁ! わっ! わ! わしはネズミが大嫌いだぁ! 表で待つ!表で~!』
ヘルゲは一目散にドロテア通りに飛び出した。
「あ~!ヘルゲ殿ぉ!他のお客さんが来ちゃうと困りますので、扉を閉めさせていただきますね~!」
トールはパタと扉を閉めると、大慌てでアデリーヌのいる地下の部屋に降りていった。
「おいおい、アデリーヌ! どこかにネズミでもいたかい?」
「私のことですか?」
「いやいや、お前のことじゃなくてネズミ」
ちゅうッ ちゅうッ
「あれ?お前の口から?」
「私は農夫の嫁ですよ。土間や枯れ草の中に沢山いましたから、始終鳴き声は耳にしておりました。物真似はお手の物。トール殿が困ってらしたようなので。それに私も自分の身を守りたいのでっ」
「助かったぁ~。ありがとう~! けどさッ、もうそのネズミの物真似やめてもらっていい?」
「なぜですか?」
「ネズミの声で助けられたら、俺、惚れちゃうから、、、」




