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43/1501

43~ゆりかごスヤスヤ

 『ほう、これは古いゆりかごだな。何か木の皮で編んである。誰かが作ったのかい?』

ラーシュはニルスに聞いた。

「古い古い。俺たちではないよ。テオドールに聞いたことがあるが、ここに来た時には置いてあったらしい」

 

 『どこの部屋にも?』

「二階の部屋にな、7部屋だ」

 

 『おかしくはないかい?ここの城には多くの子がいたということになるぞ?』

「そう言われればそうだが」

 

 『最初にここに入ったのがテオドールってこと?』

「そう。二階の全ての部屋にあったらしい」

 『こんな大きな城に、テオドールはしばらく一人で暮らしていたんだ』

「みたいだな」


 ラーシュはヤンを胸元から離すと、そのゆりかごに乗せた。

天井から吊られた紐を少し揺らすと、あっという間にスヤスヤと睫毛まつげを閉じた。

 『いつもは俺の身体から離すとギャーギャー泣くんだけどな。気持ちいいのかな?』

「ボロボロのゆりかごなのにな。ここの子はこれに寝かすと皆不思議と大人しくなる」

 


「あ、そうだ、ラーシュ。ここは城の一間だからな、ドアに鍵はない。開けようと思えば誰でも開けられるが、ここにいる者は勝手に開けるようなことはしない。ただ、ドロテアだけはノックもせずに開ける」

 『え、この部屋にドロテアが入って来ることがあるのかい?』


「ある。察しろ。さっきテオドールも言っていただろ。そういうことだ」

 『いつ来る?』


「いつ?それはわからない。ドロテアの気分次第。ただ、近いうちに来ると思う。新入りが入るとな、必ず品定めに来る」


 『品?俺のこと?』

「そう、お前は高級品だ。俺が見てもそう思う。ハハッ」


 『逃れる手はないのかい?』

「まず、、、ない」

 『チッ!』




「疲れたろう? 俺はお邪魔するよ。今夜はゆっくり休め。明日の朝飯は俺たちで取りに行くからそれまで寝ていろ。準備ができたら呼んでやる」


 

 ニルスは部屋から出て行った。

ラーシュは、その部屋の北側、両開きの木枠の窓を開けた。

冷たく凍える風が一気に床に這った。

外を見ると、切れたはずの霧がこの北側だけまだ蔓延はびこっていた。

庭の様子はわからなかったが、空は星の地に黒。透き通るバルデの大気は、空に群がる星々を全て映し出しているようだった。


ゆりかごの中を見ると、何事もなかったように眠りに更けた、ヤンの寝息が聞こえた。

(この子はこれから、外の世界を一度も見ることなく一生を終えるかもしれない)


 開け放した窓からは、ラーシュの悲鳴と泣き声が一晩中聞こえた。

その声に起こされた庭のヤギが、メエメエと答えていた。

 




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― 新着の感想 ―
[良い点] ラーシュの親心といよいよシビアになっていく状況がよく伝わってきました。ゆりかごがこの後、何か鍵になるのか注目していきたいと思います。 [一言] そして赤ちゃんが大人しくなる、ゆりかご。地味…
[一言]  色々な伏線が張られています。  ななかまどに鮭、北海道みたいですね。笑  私が住んでいる街の街路樹は桜とななかまどなんですよ。  あ、ななかまどのイラスト拝見しました。  とてもお上手…
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