42~また出た!アグニアの婆さん
「隠修士というと、あの乞食のような奴らですか?」
『そうだよ』
「あいつらは修道士なのにそんなことを?」
『するさ。金さえ出せばなんでもするのさ』
「しかし、ドロテアさまは上はタリエ侯爵から、下は隠修士まで操られているとは、、、流石でございます」
『用は金だ。お前らだって本当はそうだろ?』
「いえいえ、滅相もありません」
『金じゃなきゃ、妬きもちの一つも妬いてごらんよ。ハハッ』
「、、、」
パカポッコ パカポコ
『ちょっと悪いが私はお小水をしたくなった。馬車をとめてくれ』
「おーい!馬をとめろ~!」
ヴィーゴが馬に乗った3人の男に、幌の枠から身を乗り出して声を上げた。
「お小水の時間だぁ~!ドロテアさまがお漏らしをしてしまう!止めろ~ぅ!」
『ヴィーゴ。余計な事は言わなくて良い』
手綱を引くと馬車は浜の砂と石ころを飛ばしながら、ゴンゴンと止まった。
「ちょっとお待ちください。お小水の器を持って参りますので」
そう言うとヨーセスは馬車から降りた。
しばらくの砂煙が落ち着くと椅子下のバケットを開けた。
パカッ
「うわ~!」
「はい、ごきげんようぅ」
「な、なんだ!アグニアじゃねえか!まだここに入っていたのか!いつの間に~ぃ?!」
「いつの間にって?浜小屋の品定めが終わってすぐにじゃ」
『ん?どうした?ヨーセス。誰と話しておる?』
ドロテアが幌枠から身を乗り出して椅子の下を覗いた。
「まだここに。この中にアグニアのババアが入ってるんです!」
『はぁ?』
アグニアがバケットから顔を出すと、ドロテアと目が合った。
「あ~、これはこれはドロテアさま。ついて参りました」
『なんで? お前この先に用はないだろう?』
「ないと言えばない。あると言えばある」
『なんだそれは?』
「ほれ、ワシもそろそろ老い先が短いのでな。一度オーロラを見たくてな」
『見た事がないのか?』
「いや~、子供の頃にみたようなぁ、見なかったようなぁ」
『ついて来たのはそれが理由か?本当に?』
「本当に」
「おい!アグニア!どうでもいいからちょっと一回出てくれ!小水の器が取り出せない!」
「ゲッ!ワシは小水の器を枕にしとったんかいな? どうりで寝付けなかったわけだ」
「早く!ドロテアさまが我慢できんと言っておられるわ!」
『アホ!ヴィーゴ!また余計なことを!言っておりゃあせんわ!』
アグニアが外に降りると、ヴィーゴが器を取り出した。
それを馬車の後ろに置くと、ドロテアが跨った。
ヨーセスとヴィーゴはドロテアのドレスの裾を少し捲って手に持つと、ぼんやりと海岸線を眺めた。
「この器。またバケットに入れるのかい?」
アグニアは不安そうに言った。
「当たり前だ」
ヨーセスは笑って答えた。
「もうすぐ着くが、嫌ならアグニア、ここで降りろ」
「いや、もうすぐなら嫌でも乗って行く」
パカポコ パカパカ




