40~ベルゲンの貴族の正体
「重いな」
「重いが、軽い」
「どれくらい入っているんだろう?」
「数え出したら途中でわからなくなるかもな。ハハッ」
「しかしこれで、もうこの辺りには住めなくなるぞ」
「どこに行こう?」
「ベルゲンの町にでも行くか?」
「奴らの町か?都会だな。歩いてる女はきっとみ~んな金持ちのいい女だ」
「飲み屋もたッくさんあるしな」
「毎日飲んで騒いでだ!」
「ハハッ!ハハハハハ!」
キルケは両親と暮らしていたが、イワンは一人暮らし。
2人は交代しながらカバンを引きずり、イワンの部屋に向かった。
「イワン。鍵を閉めてくれよ」
「もちろんだ。誰かに覗かれたら大変だ」
「ワクワクするな」
「ああ、ドキドキだ」
「開けるぞ」
牛革の真四角。抱きかかえても手が届かぬ幅広の厚みのあるカバン。
キルケはそれを横にすると、持ち手の左右。その留め金具を外した。
ガチャ パカンッ
「おー!凄い!凄いぞ!凄い!」
「カバンから溢れ出る!」
「数えてみるか!?」
「100以上は数がわからん!ハハッ!」
イワンは3センチほどの厚み。その一つの束を手に取った。
パラパラパラ
「1,2,、、、ん?」
「どうした?」
「2枚目から真っ白」
「え?」
キルケは他の札束を手に取るとパラパラと捲った。
「これも!あ、これも!これもだ!」
「おい俺たち、、、騙されたってことかい?」
「これも、これも、これも~!これもぅ~!ただの白い紙ッ切れだぁ~!」
「わ~!ほんとにトンヅラしなきゃあじゃ~んッ!!」
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「店主のヨーセスがいたら、こんなに簡単にはいかなかったな」
「まあ、間違いなく金はキッチリと数えていたろうな」
「一つ一つの品物の値段もわかっておるだろうし」
「代わりのアホどもで幸運だったな」
「すんなりだった」
「俺たちが海賊だなんて微塵も思ってなかったようだ」
「この格好だからな。しかもな~んも知らんらしい。この服がスペイン貴族と騎士の物だということも」
「ただ同然でこのお宝だ。ワッハハッ!」
「さあ!船を出せ!奴らが気づく前に! さあ!」
ベルゲンの貴族。タリエ侯爵の使い。
それは全て嘘であった。
この海賊。ノルウエー沖でスペインの船を強奪し皆殺し。身包み剥いで裸にし、その異国の者達を海に放り投げた。
盗賊のボロ布を巻いただけの姿。それを脱ぎ捨てた彼らはスペイン人から奪い獲った騎士や貴族の服に着替えた。
そして彼らは、かねてから噂のあったヘルゲ男爵の港町。
ヨーセスのお宝の店。
そこに目をつけた。
「それとな。あの店の地下。あれはマネキンじゃない。生きた女だ」
「なぜわかる?」
「ロウソクの火であんなに温まるかよ」
海賊を乗せたスペイン船は波の泡を吹き出しながら、真昼の港を我が物顔で去って行った。
ウミガラスと白カモメが、泡から飛び出した子魚を啄みその後を追った。




