39~「やったな!キルケ!」 「山分けだ!」
「これでございます」
トールは地下の部屋から、アデリーヌが脱いだドレスを持って階段を上って来た。
綺麗に畳んで来たものの、その重さは両手で踏ん張るほどだった。
売り場まで持って来ると、地下の暗さではわからなかったシルクの青色が、眩い鱗のような光を放っていた。
「お~!見事な服だ。貸してみろ」
ベルゲンの客はそれを両手で手にとった。
「ズシリとくるな。ん?しかし、これはなぜ暖かいのだ?人肌のようだが。この寒さ。地下にあったというのに」
「あ~、それはぁ、、そのぅ、、今お客さまにお出しする前にホツレがあってはなりませんと思いぃ、ロウソクの火でぇ、、グルっと確認して参ったからではないでしょうか? はいはい」
「ま、いいが。ではこれももらっていく」
その会話を聞いてヒヤリとしたキルケは、トールの返しの言葉に安堵した。
(うまいぞ。トール。)
一通りの品定めが終わるとベルゲンの客はこう言った。
「荷車はあるか? これだけの物だ。港までは容易ではない」
「あ、はい。4軒先の乾物屋に数台。お借りしてきますわ。乾物屋ならもうこの時間でも、おると思いますし。 おい!イワン!ちょっと乾物屋の親父に聞いてきてもらえんか?!」
「はいはい」
「あ~、おいおい、いっぺんに運びたいのでな。あるだけ借りて来い。港の行ったり来たりはめんどくさい。積み終わったら港の岸壁に置いておくから、お前らが取りに来い。俺たちは先を急ぐんでな」
「はいはい、もちろんですとも!これだけの物をお買い上げ頂いたわけですし。それくらいは」
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乾物屋の魚臭い荷車は計6台。
崩れるほど詰め込んだ荷台の上は、石畳のデコボコに右へ左へ。
それをベルゲンの貴族と手下がヤンヤヤンヤと押さえながら、港へと向かって行った。
「キルケ。やったな!」
「ああ。やった」
「俺たちは大金持ちだな!」
「ああ、もう一生働かなくてもよいぞ!ハハッ!」
「あ、トールには?」
「黙っておけ。この件はヨーセスに言われていると言ったし、、、それに、トールに言ってしまったら、半分ずつが3分の1になっちまう」
「そうだな。もったいねえや」
「でさ、あのドレス。脱いじゃったってことはさ?」
「おッ!ことはぁ?」
キルケとイワンは地下の階段をバタバタと降りて行った。
「ん?あれ?着てる?」
「ああ、このテーブルの上にあったクロスを巻いてもらった。ちょっと寒いが辛抱してもらって。あ、キルケ、どこかでアデリーヌの服を誂えてもらえないかい? 今の売り上げから買ってもヨーセスには怒られないだろ?」
トールが言った。
「ああ、わかった。でさ、そのぅ、、この金はヨーセスのことづけで、ヨーセスの婆さんの家に持って行かねばならんのだよ。それからでもいいかい。それまではお前にここに居てもらわねばならんが」
「わかった。待ってる」
※またまた後載せではありますが。
「34~井戸は氷が張っていた」
にヘルゲ男爵の館の井戸の絵を載せました。宜しかったら是非ごらんください。
大した絵じゃないですけど。




