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37/1501

37~「キルケ。店を開けちゃうのかい?」

「アデリーヌ。朝飯を持って来たぞ」


 朝とはいえ、ヨーセスの店の地下。真っ暗だ。

キルケとイワンの仲間。トールという男が右手にランプ、左手に鮭の切り身がのったパンを持って階段を降りて来た。

「お腹は減ったかい? 眠れたかい? 椅子に座ったままってことは寝てないな?」


 『あなたは、昨日の人達のお仲間?』

「ああ、キルケとイワンのな。そんなことより、まあ食べろ。俺が作ったんだ。うめえぞ」

 

 『いりませんわ。食べる気にもなりませんわ』

「そういわず」

 トールは皿の上のスプーンで鮭の身をほぐした。


「ほれ、アデリーヌ。あ~んしてみな」

アデリーヌはすぐさまプイと横を向いた。

 『いらない!』

「かわいい顔して気は強いな。食べないとラーシャ?だっけ。旦那にも会えないぞ」



 ドンドン!ドン!


 「おーい!ヨーセス!ヨーセスはいるかぁ!店を開けろ~!」


「あれ?誰か来たな。店が閉まってるのがわからんアホたれだな。知らん知らん!」

 『開けなくてよろしいんですか?』

「俺の店じゃないからな」

トールはアデリーヌの朝飯のパンをムシャムシャと食べながらそう言った。


ーーーーーーーーーー


 キルケとイワンが、ヘルゲに『アデリーヌを捜せ!』と命じられ、館の庭から、石畳の通りに降りて来た時だった。


「あれ?キルケ。ヨーセスの店の前。なんだあの人だかりは? 」

 「朝だというのにどうしたんだ? 客か?」

「身なりが」

 「貴族だ」




「おーい!店を開けろ~!わざわざベルゲンから来たのだぁ! タリエ侯爵の使いの者だ!」


 

 「ベルゲン?あの大きな港町のベルゲン?」

「タリエといえば、もっとも王に近い男」

 「どうする?」

「どうするって、ヨーセスはいないぞ」

 「ま、行ってみよう」


ーーーーーー


 「あれあれ、皆様お揃いで。どうされましたか? わたくしはこの店のヨーセスの親友キルケと申す者」


「なんだ、お前。ヨーセスの連れの者か。ヨーセスはどこに行った?」


 「どこにと申されましても、しばらくは戻ってまいりませんが。どういったご用件で?」

「どういったも何も、タリエ侯爵の使いでな。買い物をしに来たのだ」

 「なにかお求めになるお品でも?」


 その男は手下らしき者の持っていた大きなカバンを指差した。

「なにをという物はない。タリエ侯爵からな、このカバンに入っておる金。全部ここで使い果たしてこいと言われたんだ」

そのカバン。手下の両腕を広げても抱えきれぬ大きさであった。


「え、そんなにぃ? ここは留守番のわたくしが店を開けねばなりませんね。ヨーセスも喜ぶことでしょう」


 「は?お前留守を任されていたのか! それを先に言え!」





「キルケ、店を開けるって?そんなことしていいのかい?ヨーセスにバレちまうじゃないか」

 「イワン、見たかいあのカバン。俺たちが死んでまたよみがえってもまだ使い切らぬくらい入っているぞ」

「なんだよ。山分けってことかい? 売り飛ばして金ふんだくって、トンズラするつもりかい?それは不味くないかい?」

 「お前に言われたくないんだよ。昨夜お前、店の帰りがけ。棚の指輪をポケットにねじこんだろ?」

「、、、ああ、見てたんだ、、」



ドンドン!

「おーい!開けてくれ~!キルケだぁ!トールはいるかいぃ?鍵を開けてくれぇ!お客様がお困りだぁ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物たちが、それぞれ欲にまみれて判断し、行動しているのが面白くて滑稽です。今回も大金に目がくらむキルケたちの分りやすさ。そして、タリエ侯爵の使いというのは、なぜ大金を使い果たそうという…
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