36~ヘルゲとペトラ・ドロテアはどこの人?
「では、わたくしはお夕飯のお支度を」
『なんだか、腹が減らん。気になって気になって』
「アデリーヌの行方がですか?」
『もちろんそれもそうなんだが、ドロテアに何て言いわけをすれば良いのか』
ペトラは竃に火を点けるとこう言った。
「ヘルゲ殿は男爵さまでございましょう? ドロテアさまはそのご夫人。なぜヘコヘコとしておられるのですか?」
『ヘコヘコ?そう見えるかい?』
「見えますともっ」
『話せば長くなるんだが。聞きたいかい? 頭の上がらぬ理由を。お前はただの使用人、話してやってもいいぞ』
「長くなるなら結構でございますわ。鶏肉も焦げてしまいますから」
『実はな』
「お話になるのなら、煮炊きしながらでよろしいですか?」
『実はな。ドロテアは元は北の北の、そうそう今行っておる北東バルデ、マウリッツ。そこの生まれだ。その浜に住んでおった。若い頃はそれはそれは美しかった。しかしな、わしの女好きを見抜いたのかそのバルデに住んでいる女子たちを次から次へとわしに紹介しよった。それはもう毎晩毎晩大変だった。ハハッ』
「なにがです?」
『言わせるな』
「ドロテアさまは、そんなにたくさんの娘さんたちと知り合いで? 知り合いというか、、無理やりと言いますか、、」
『そりゃあ一人一人に金は渡したさっ! 皆喜んで帰って行ったさ』
「ドロテアさまは、そのいくらかを彼女たちから分捕っていたんじゃありませんか?」
『分捕ったら分捕ったで、わしらに金が戻ってくるだけの話だ。ハハッ』
「仲の良い夫婦なのか、悪いのかわかりませんわね」
『わかったろ? これがわしの頭の上がらぬ理由だ』
「女をいっぱい連れて来たから?」
『ドロテアにな、言われたんじゃ。「女子を紹介して欲しければ私のいう事をお聞きっ!」てさ。「そうすればいくらでも連れて来てやる!」ってさ』
「それがお尻に敷かれている理由?」
『そうだ。当たり前じゃないか』
「は?当たり前?」
『したらな。いつの間にかマウリッツ城がドロテアの城になっていたんだ』
「ではその前にそこに住んでいた者たちは? ドロテアさまのご両親は?」
『知らん』
「確かあのお城は大昔に、イブレートという侯爵さまがお出でになられていた城。代々のご子息さまもその辺りにずっと住んでおられたと聞いた事がございましたが」
『知らんというか言えん』
「長いお話になると言っておられたのに、そこは言えないのでございますね?」
『あ、お、ペトラ!鳥のお肉が焦げるぞ!』
「大丈夫です。まだ生ですっ!」
※昨日投稿。「35~部屋はここでいい」の文中に、また拙いデッサン風の絵を載せました。宜しかったらまたご覧になってみてください。
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