35~部屋はここでいい
マウリッツ城。
「ラーシュ。いくつか部屋はあるが、一つずつ見るかい? この廊下の右側は13室あって、子のいるもんは皆ここだ。オーロラが見えるからな。あと7部屋空いている」
『変わりはないのだろう? ニルス』
「ああ、大きさはな。ベッドの大きさもだ。ただ置いてある調度品が違う。一部屋に一つずつ暖炉もあるぞ」
『暖炉?薪はどうして手にいれているんだい? 見たところ、外には大きな木が2本だけのようだったが』
「至れり尽くせりだ。薪もな、食い物と同じように城壁の向こうから紐で結ばれて降りて来る。しかもすぐに使えるようにちゃ~んと割ってある」
『天国なんだか、地獄なんだかわからないな、、』
「ここ。開けてみるかい?」
ギギギィ
『えっ!なんだこの部屋はぁぁ!』
「凄いだろ? 上を見てみろ。ロウソクのシャンデリアだ。暖炉の火を使えば煌々(こうこう)とな」
『ロウソクも城壁の向こうから?』
「そうだ。俺たちが生活していく上の全てが城壁の向こうから降りて来る」
『それでは何がいつ降りて来るかわからんな』
「なにか持って来れば、壁の向こうから鐘を鳴らしてくるぞ。カ~ンカ~ンとな。それが合図だ。三度の食事以外はな」
『子供はこの部屋からも出れないのかい?』
「屋敷の中なら大丈夫だ。外に出なけさえすればなっ」
『けど毎日誰かが見張ってるわけではないだろ? 少しくらいなら』
「それがだ。俺たちもそう思って一度な、子を外に出したんだ。そしたらだ。すぐに城壁の扉があいてな。ドドドッと鉄の仮面をした連中が入って来た。50人はいたかな? 剣と盾を持った奴らだ」
『この高い壁。どこで見張ってるんだ?!』
「俺たちだってわからんのだよ。もちろん知ってりゃ子を外に出すなんてしなかったからな」
『ドロテアの手下だろうな。海賊達か? お咎めは?』
「ない。二度とするなと言われただけだ」
『は?そんなもんで済んだのかい?』
「どうやら俺たちはドロテアの宝物らしい。ハハッ。手出しはできぬようだった。ま、この至れり尽くせりでわかると思うが。ハハッ」
『脅しだけかい』
「ただな。俺たちが思うには、そいつらは仮面や鉄の装束で、声を出さなかった。なんとなくだがぁ、、、走り方や動き方からして、、皆女のようだった」
『おんなぁ~?』
「いやいや、そう見えただけだ。皆んなも後からそう言ってはいたが男だったのかもしれん」
『しかしこの城の外?どうやって見張っているのか?』
「お、そうだそうだ。この部屋。ゆりかごもあるぞ。この部屋が最後に残ったゆりかごの部屋だ。これでヤンをあやしてやればいい」
『この部屋。眠れねえな』
「なんで?」
『キラキラし過ぎだよ』
「じゃ、他の部屋を見てみるかい?」
『きっと同じようなもんなんだろ?』
「まあな」
『ここでいいよ。ここに決めた』




