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33/1501

33~城は美男子工場

 「では、ラーシュ。二階へ」


ホールの真ん中。螺旋階段をラーシュとニルスは上り始めた。

 「つまづくなよラーシュ。こんな階段など上ったことがないであろう? 子も抱いている。ロウソクの火だけだ。気をつけて」

 

 

 『ニルスとかいったな?』

「ああ、そうだ」

 『お前も、漁師か農民だったのかい?』


「俺はな、皆んなとちょいと違う。貧しいには変わりはないが、あやつり人形師だ。芝居小屋を持っていてな。そう、ヘルゲとドロテアのいる港町の町ん中」

 

 『その人形師がなぜ?』

「ちょっとな、ヘルゲとドロテアを揶揄やゆした芝居をな。客の受けは良かったんだが、そのうちの誰かがヘルゲに密告したんだ」

 

 『とんだ災難だ。しかしなぜここに? 普通なら牢獄行きでは?』

「それがさ、ドロテアにとっては俺は好みの顔だったらしくてさ。俺の女房に言い掛かりをつけてきた」

 

 『なんて?』

「こんな芝居を亭主にさせる女は魔女に違いないと」


 『はあ? バカげている。で、その女房は?』

「知らん。わからん」


 

 『そうかぁ、、皆同じなのだな。で、ここには6人の子がいるとテオドールとやらが言っていたが、その人形芝居でも見せてやっているのかい?』


「この城にもいくつか人形が置いてあってな。青いガラス玉の目に金髪の人毛。美しい麻の衣装を着せられた優れモノの一級品だ。ここの昔の城主、イブレート侯爵の物だろうがそれはそれは古い物だ。」

 

 『それを使って芝居を? 子らに見せたのかい?』


「そうなんだが、、」

 『なんだが?何だい?』


「わからんのだッ。」

 『わからん?』


「ちょっとな、言い辛いのだが、、ここに収監された俺達は皆若い。だから連れて来た子は、皆小さかった。赤ん坊のようなものだ。だからわからんのだ。そのまま物心がついてしまったのだ」

 『だから何がわからんのだ』


「この城の中のことしか」

 『あ!』


「まず、女という者がこの世に存在する事すら理解できんのだ。芝居には男と女は付き物だ」

 『、、、』


「それだけではない。植物や動物、虫の存在すらわからん。窓から見える飛んでいる鳥くらいだ。日に当たった事も無ければ、雨に打たれた事もない」

 『いや、庭に出れば少しはわかるであろう?』


「言い辛い。言い辛い。実はな、、ああ、言いづらい」

 『言えよ。ニルス』


「10になるまではこの城の屋敷からは一歩も出てはならんのだ」


 『はっ?なぜ?』

「色白好きのドロテアの好み。それにな、転んでその美しい顔に怪我をされたくないらしい。傷跡を残して欲しくないらしいのだ」


 『子供は日に焼けてなんぼ!怪我をしてなんぼ!そうやって大きく育つのだ。なにを考えているんだ!』

 

「仕方がないさ。ここはドロテアの美男子工場と言うわけさっ」


挿絵(By みてみん)

操り人形

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― 新着の感想 ―
[良い点] 操り人形師のニルスについて、子供らが芝居を理解できないというのが、非常にリアリティがあり、ここの特殊な環境がよく伝わってきました。人形についても、どういうものが一級品かきちんと書かれていて…
[良い点] 思った以上にこれは厳しい環境… 女や自然といったものの存在すら待ったか知らずに育つとは。
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