33~城は美男子工場
「では、ラーシュ。二階へ」
ホールの真ん中。螺旋階段をラーシュとニルスは上り始めた。
「躓くなよラーシュ。こんな階段など上ったことがないであろう? 子も抱いている。ロウソクの火だけだ。気をつけて」
『ニルスとかいったな?』
「ああ、そうだ」
『お前も、漁師か農民だったのかい?』
「俺はな、皆んなとちょいと違う。貧しいには変わりはないが、操り人形師だ。芝居小屋を持っていてな。そう、ヘルゲとドロテアのいる港町の町ん中」
『その人形師がなぜ?』
「ちょっとな、ヘルゲとドロテアを揶揄した芝居をな。客の受けは良かったんだが、そのうちの誰かがヘルゲに密告したんだ」
『とんだ災難だ。しかしなぜここに? 普通なら牢獄行きでは?』
「それがさ、ドロテアにとっては俺は好みの顔だったらしくてさ。俺の女房に言い掛かりをつけてきた」
『なんて?』
「こんな芝居を亭主にさせる女は魔女に違いないと」
『はあ? バカげている。で、その女房は?』
「知らん。わからん」
『そうかぁ、、皆同じなのだな。で、ここには6人の子がいるとテオドールとやらが言っていたが、その人形芝居でも見せてやっているのかい?』
「この城にもいくつか人形が置いてあってな。青いガラス玉の目に金髪の人毛。美しい麻の衣装を着せられた優れモノの一級品だ。ここの昔の城主、イブレート侯爵の物だろうがそれはそれは古い物だ。」
『それを使って芝居を? 子らに見せたのかい?』
「そうなんだが、、」
『なんだが?何だい?』
「わからんのだッ。」
『わからん?』
「ちょっとな、言い辛いのだが、、ここに収監された俺達は皆若い。だから連れて来た子は、皆小さかった。赤ん坊のようなものだ。だからわからんのだ。そのまま物心がついてしまったのだ」
『だから何がわからんのだ』
「この城の中のことしか」
『あ!』
「まず、女という者がこの世に存在する事すら理解できんのだ。芝居には男と女は付き物だ」
『、、、』
「それだけではない。植物や動物、虫の存在すらわからん。窓から見える飛んでいる鳥くらいだ。日に当たった事も無ければ、雨に打たれた事もない」
『いや、庭に出れば少しはわかるであろう?』
「言い辛い。言い辛い。実はな、、ああ、言いづらい」
『言えよ。ニルス』
「10になるまではこの城の屋敷からは一歩も出てはならんのだ」
『はっ?なぜ?』
「色白好きのドロテアの好み。それにな、転んでその美しい顔に怪我をされたくないらしい。傷跡を残して欲しくないらしいのだ」
『子供は日に焼けてなんぼ!怪我をしてなんぼ!そうやって大きく育つのだ。なにを考えているんだ!』
「仕方がないさ。ここはドロテアの美男子工場と言うわけさっ」
操り人形




