31~覚悟の城
マウリッツの城。
その大理石のホールには美男の貴公子たちがラーシュを取り巻いていた。
『気が狂ってしまいそうだ』
ラーシュはテオドールたちの前、愕然と肩を落とした。
『こんな所で生きているくらいなら死んだ方がどれだけ増しか』
「なにを言っている。ラーシュ。お前が死んだらその子はどうなる? それともその子と一緒にか? 首に手を掛けることができるのかい?」
『それは無理だ』
「そんなことをしたら、お前がドロテア以下の人間として皆から軽蔑され、子殺しの悪魔となって死を迎えることになるぞ。お前の妻のためにも生きるのだ。死んでしまえば二度と会えん。生きてさえすれば可能性は0ではない」
『それはそうだが』
「その坊やは何という名だ?」
『ヤンだ』
「ちょっと抱かせてくれよ」
『やんだ!』
「よいではないか。ここの者はな、皆人間に飢えているのだ。子を入れてもたった18人。人恋しいのだ。ほれ」
テオドールはヒョイとヤンを抱くと、その頬っぺたに頬ずりをした。
「お~、可愛いのぅ。ミルクの匂いがプンプンするわい」
「お~、ほんに可愛い!」
テオドールの周りを11人の男たちが取り囲んだ。
『おい、テオドール!あんまりベタベタ触るんじゃないよ!』
「まあまあ怒るなラーシュ。ここにおる者はな、こんな貴族のような格好をしているが、元は妻を魔女として狩られた貧しい者ばかりだ。汚らわしいことはせん。皆純粋にこの子を可愛いと思っているのだ。ほら、皆の笑顔を見てみろ」
ラーシュはひと通りその者たちの顔を見ると、テオドールの言う通り確かであった。
(しかし、揃いも揃って色男の麗人ばかりだ、、)
「ラーシュ。このヤンのためにもな、いつかを夢見て覚悟を決めるのだ」
『チッ!』
ラーシュは舌打ちしながらも、時を待つことに従った。
「では、ニルス! 部屋に案内してやってくれ! それから着替えもだ。ヤンにもあるから」
『こんな赤子の物まであるのか?』
「ああ、なんでも揃っている。で、部屋はな、幾つもあるぞ。全ての部屋にダブルのベッドだ。ハハッ!意味はわかるな? 好きな部屋を選べ。 あ、ただな。食事は皆んなで揃ってだ。朝昼夕と。ま、点呼を兼ねた食事だ。海賊たちが城壁からぶら下げた料理を皆んなで取りにいって、切り刻んで分け合うのも皆んなでやる。当番とかそんなものはない。掃除もだ。とにかくやる時はなんでも全員だ。不公平無くな」
『決まり事まであるのかい、、』
「少人数でも人が集うということはそういう事だ」
『まあな』
「ラーシュはオーロラを見たことがあるかい?」
『オーロラ?なんだい、突然』
「その返事では、見たことはなさそうだな」
『ないよ』
「おい、ニルス。北側の部屋。どこでも良い。案内して差し上げろ」
「わかりました。北側ならどの部屋からでも赤や緑や紫の鮮やかなオーロラが見えますゆえ、ご案内差し上げましょう」




