28~キルケの予想
『ドレス。直します!』
「いやいや、そのままでいろ。その姿のままでいいよ」
『おかしなことを言いますね?』
「ああ、あのぅ、あれだ。その格好を見たら、ヨーセスのことだ。きっと可~愛い!というに違いない。そのままでいいよ。ハハッ」
『そんな!恥ずかしい!』
「おいおい、この場に及んで恥ずかしいとかいう気持ちがあるんだ? 亭主の前以外ならそんなことなどかまわん女かと思っていたが、、、それにな、そのドレスは胡桃のボタンが後ろだ。着直すなら俺が背中を留めねばならない。そんなことをしたら、この暗闇でランプひとつ。白い背中の肌を見たら俺の鼻息が荒くなる」
『、、、』
「お前に抱きついたのがバレて、ドロテアやヨーセスに殺されるのを選ぶか、そのままの格好にさせてまだまだこれから金を稼ぐか。答えは一つだろ?」
『バカな選択だわ』
「俺も盛りの青年だからな。ここはそのまま後ろ前でいてくれや」
「そういやお前。なにか食べたかい? 腹が減ってんじゃないかい?」
『そんなこと忘れておりましたわ。それにこんなことをされて、食欲なんかありませんもの』
「夜が明けたらな。代わりの者が来る。さっきいた奴、イワンというのだが、俺はそいつとヘルゲの館に行かねばならんのだ。お前を薪小屋から連れ去ったのが俺達じゃないって証明にな。慌てるだろうな。ヘルゲの奴アデリーヌちゃんがいない!ってな。ハハッ」
『で、食事の話はどこに飛んだんですか?』
「ああ、悪い悪い! そッ、で、俺の代わりの見張り番の奴がお前になにか見繕ってディナーを持って来てくれるってわけさッ」
『朝ですよね?』
「ああ、悪い悪い!朝飯だ。ディナーじゃねえな!」
『いらないです』
「大丈夫だ。毒など盛ってありゃせん」
『そういう問題じゃないんです!』
「わかった、わかった。けどな食べてもらわねば困るんだ。今のその美しい顔立ちを保ってもらわねばな。少なくともヨーセスが戻るまではな」
『全くもって意味がわかりません!』
「これはな、俺の考えだぞ。あくまで俺の。実はな、お前のその美貌は噂であったのだ。ドロテアやその貴族たちの間で。それはな、魔女狩りの手助けをしている北東バルデの漁村のババア。そいつが今まで数々の女を密告してきたが、今回は飛び切り美しい女だと」
『私はただの田舎の農民ですわ!』
「美しいに農民も貴族もないわ」
「俺は思うのだがな。 お前、最近流行の宮廷舞踏会ってのを知っているかい? まあ、知らぬと思うが貴族たちの社交の場だ。それはそこで貴族の独身の男達が、自分にふさわしい夫人となる女を見つける場でもあるんだ。 もしだ、お前がドロテアの養女となりその舞踏会で更に上の階級の者に見初められれば伯爵や侯爵へと上り詰める事ができるのだ。狙いはそこだ! と、俺は思うんだ」
『そんなはずはありません。ドロテアさまは私の前で、なぜ海に捨てて来なかったのだと言っておられましたよ』
「演技じゃないのか? ヘルゲに対しての。お前の美貌を見たかったはずだと思うしな」
『そんなことをしても爵位が上がるのはヘルゲさまでございましょう? ドロテアさまは単なるその夫人』
「ドロテアのおかげで爵位が上がったとなれば、増々ドロテアの権力が強くなるであろう?」
『では、こそこそやる必要はないじゃないですか?』
「なにかあるんだろ。俺にはわからん」
『私はただ、ラーシュとヤンのところに戻りたいだけなのです。お願いです何とかなりませんか?』
「ならんな」
※6~ナナカマドの実(第6部分)に、またまた私が描いた拙いナナカマドの実の挿絵を載せました。
話が決まらないと絵が描けないので、いつも後載せになりすみません。
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