26~俺たちは家畜
『楽園? 嫌だ!俺はなんとしてもここを出る!』
「出れんといっておるだろうが! 確かにな、ここに居る者皆最初はそう言っていたが、出られない以上、腹をくくったのだ!」
『お前らはバカなのか? 自分の妻や子を狩られこんなところに詰め込まれてどうして腹をくくれるのだ!』
「俺達は皆、貧しい農民や漁民だったのだ。お前もそうであろう? ヘルゲとドロテアはそういう民しか狙わんからな。それがな、この暮らしぶりだ。妻のことは諦めたのだ。心の中では泣いているのだがな」
『ここで生きるしかないってことか? それならそれでここを満喫しようってかっ?』
「まあ、そんなもんだ」
『しかし食べねば生きてはいかれぬだろ? 食事はどうしている? しかも俺にはこんな小さな赤子もいる。ミルクは?どこにある!出せ!出してみろ!』
「ここに来るとき、庭にいたであろう? ヤギが。 この者達の6人の子もそれで育った。今だってそれを飲んでいる」
『飯は?』
「運んでくる」
『誰が?どうやって?』
「毎日、この高い城壁の上から一頭分の羊や豚の肉が降りて来る。ちょうどお前が入って来た扉の辺りだ。たぶん外壁には梯子か階段があるのであろう」
『階段は無かったようだが、、暗くてわからなかったが』
「トナカイの骨付き肉は絶品だ。しかも湯気をホワホワと吹きながら降りて来る。もう焼いてあるということだ。肉だけではないぞ。他にもな、蒸したカニ。バターやチーズ。パン。紐に吊り下げられた鉄の桶に入ってソロリソロリと降りて来る」
『この辺りに人が住んでいるのか?』
「盗賊?海賊?そんな奴らだ。皆ドロテアの手下。彼女が金を払っているんだろ」
『面倒見がいいな。ドロテアもその手先も』
「ああ、ドロテアにとっては俺達は楽園の宝さ。やせ細って見窄らしくなってもらっては困るからな。良いものを食べて栄養を取ってもらわんとならんってわけさっ」
『家畜だな』
「そんなとこだ」
『しかしその海賊連中はよく手を抜かないな。ドロテアは常にここに居るわけじゃないだろう?』
「ハハッ。手を抜いて7日に一度しか餌を与えなければ、我々が痩せ細っていく。すぐにバレちまうからな」
『ちょっと待て。テオドールとやら。お前らはここに収監されてから一歩も外に出てはいないのだろう? それならなぜ飯を持って来てるのが海賊たちだとわかる?』
「ドロテアに聞いた」
『えッ! ドロテアさまと話をしたことがあるのかい?』
「ここにおる者達は皆、ドロテアと一夜をともにしておるからな」




