24~「ようこそマウリッツの城へ」
『テオドール!テオドール殿~!』
大理石のホールにラーシュの声が響き渡った。
その声に寝ていたヤンがバチクリと目を覚ました。
オギャ~オギャ~
『おーおー、せっかく乳を飲んで眠っていたのに。けどごめんよ。もう一声』
ホギャ~ホギャ~
『テオドール殿ぅ!テオドール殿はいらっしゃいますかぁ~!?』
コツコツ コツ
「誰だ?こんな夜更けに」
コツ コツ コツ
螺旋階段の上、ロウソクの火に人影が揺れた。
その影の足音がゆっくりと下に降りて来た。
「おーぅ。久しぶりの新入りだな?」
『新入り?』
「ようこそ。マウリッツの城へ」
『テオドール殿とは、あなたさまの事?』
「ふふ。そうだ。俺がテオドールだ。お前は?」
ベージュと濃紺のストライプ。それは前ボタンのプールポワン。
その上からは立て衿のタイトなえんじ色のガウン。袖口には金銀の毛織の刺繍があしらわれていた。
『ラーシュといいます』
「ようこそ、魔女の旦那さま」
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スタコラスタコラ
急げ~急げ~
ミカルは表の芝を蹴り上げながら、ヤギを横目に元来た城壁の扉に向かった。
「ミカル~!早くぅ~!」
扉の外から馬番をしていたゴロツキ仲間の2人が手招いた。
ミカルは開けられていた壁の扉。転がるようにその敷居を跨いだ。
「おい!お前ら早く!早く扉を締めろ!」
バッタ~ン!バタッ!
「丸太をかうんだ!」
ガシャリッ ガタッ
「ふぅ~。なんとか片付いた」
「ミカル。なにやってんだい? 壁に立って」
「ふぅ~。本当に漏れそうだったんだよ」
ミカルは安堵の一息に目を瞑った。
ジョボジョボ
地面から湯気が立った。
(ラーシュよ。もう二度とこの世界には戻れぬ)
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『魔女の旦那さま? あ、裁判官でいらっしゃいますか? その身成といい 』
「やはり、ドロテアさま好みのいい男だ。なるほどな」
『好み? あの、それよりもアデリーヌ。俺の妻に会いたいのだが』
「ハハッ!ここにはアデリーヌなどという女はおらんよ。というかぁ、、女がいないのだ」
『言っている意味がわかりませんが』
「ちなみにだが、その抱いているお子は男の子であろう?」
『ん?なぜわかる?』
「女子ならな、ここには入れんのだ。殺されているはずだ」
『ん?どういうこと?』
「ドロテアさまは女に興味はないからなっ」
『はぁ? そんなことはどうでもいい! とにかくアデリーヌはどこにいるんだっ!』
「ここにはな。12人の若い男。俺も含めてなっ。 それと6人の子が住んでいるのだ。皆男の子だ」
『住んでいる? ここは裁判所ではないのか?』
「お前で13番目だ。お子は7人目。不吉な数字と幸運の数字が交錯しておるのぅ。ま、良いから上に参られよ」
『あ、ちょっと待ってくれ。今な、ドロテアの手下のミカルという者が小便から戻って来る。奴から理由を聞きたい』
「ハハッ。来ない!来ない! もうすでに城壁の外だ。きっと鍵をかけてしまっておるぞ!」
『え!それなら裏にあるという門から出て引っ張って来ますわ!』
「ラーシュ。よく聞け。この城の城壁には裏扉も門も無いのだ。この城に入るにはお前が入ってきたその扉しかないのだ」
※プールポワン
鎧などの下に着る防寒服
表地と裏地の間に麻クズを詰めてキルティング施した上着




