23~外鍵の言い訳・城の灯り
「ラーシュ。お前はなにを言ってるんだ。この鍵は中も一緒。もちろん中からも開けられる」
『わかってるさっ。鍵とはそういうもんだ。俺が聞いているのはその丸太だよ!ま、る、た!』
「丸太?」
『内側から鍵が開いたからって、両扉をその丸太で噛ましてたら中からはビクともしないだろう?開くわけがない』
「あ、あ、それはそのぅ、あれだ。ここには裏門があってな。裁判官やドロテアさまはそちらから入られる。でここは、なんだっけ?そうそうアデリーヌ。裁判中の魔女が逃げられんように外から鍵を掛けてるってわけさ」
『逆じゃないのかい?あのさ、普通はドロテアさまが正門から入るんじゃない? 裏門は俺達みたいな身分の低い者が。』
「は?俺の?このミカルのどこが低い身分というんだ!?」
『フン!本当にここにアデリーヌはいるのか? 人がおるというのか?』
「いる!もう良いから中へ入れ!」
『わかった。入ってみましょうっ』
「あ、お前ら2人は馬の番をしておれ。ここからは俺とラーシュで城に入る」
ーーーーーーー
『月の明かりではあるが、綺麗に芝が整えてある。それに畑?』
メ~ェ メ~ェ
「ほれ、ヤギもいるよ」
『なんだ?ここは?なぜ裁判だけに使うのに畑やヤギが?』
「ここを管理している奴の趣味さっ」
『は?居るんじゃないか。門番できる者が』
ミカルはそれには答えなかった。
庭を横切ると左右に大きな2本のナナカマドの木。
その先に城の扉があった。獅子の形をした鉄の大きな引手だった。
「ラーシュ。上を見てみろよ」
『あっ!』
「な、いるだろ? 人が」
見上げた城。
窓という窓。
その部屋の中に明かりが灯っていた。
窓ガラスに映し出される揺らめくロウソクの灯り。
「ほれ、霧で翳んでいたからな。今は鮮明だ」
ミカルは鉄の獅子の口から出ている取っ手を引いた。
「入れ」
『お~!!なんという!』
「なっ、凄いだろ?」
開けた入り口は黒と白に光る磨かれた大理石のホール。
上からは零れ落ちるような色とりどりの神々しいシャンデリア。
ホールの中央には、葡萄の蔓の細工を施した手摺りの螺旋階段。
四隅にはミケランジェロの裸体の石膏彫刻が客を出迎えるように立っていた。
「ほれなっ。裁判所みたいであろ?」
『ん、、裁判所というか、社交場のようだな』
「そう、ここにお前の嫁、、いや魔女アデリーヌがおるのだっ。たぶんドロテアさまも」
『裁判前に魔女と決めつけるんじゃないよ。で、アデリーヌはどこに?』
「たぶん二階ではないかな?」
ラーシュが、螺旋階段の手すりに手を掛けた。
「おいおい!ラーシュ!勝手な真似をするな!ここは魔女裁判を行う所であるぞ!」
ミカルはラーシュの首根っこを掴んで引っ張った。
『俺は一時でも早くアデリーヌに会いたいんだ!』
「まったく!あのな。裁判が始まらないと会えんのだ!しかも今は夜!夜だよ!夜!
ここの二階にテオドールという者がいるから!下から呼べば降りて来る!それを待っておれ!」
『ああそうか、わかったよ』
「呼び続ければ必ず降りてくる。で、俺はちょいと小便に行って来るから」
『小便だと?』
「すぐ来るから、テオドールを呼んどいてくれ」




