22~夜霧のマウリッツ城
画・童晶
夜の霧が覆っていた。
西からの冷たい雪雲は東からの風に煽られ、ここでぶつかった。
ラーシュとミカルたちはアデリーヌが裁判を行う城の近くまで来ていた。
「もうこの辺りだが、前がよく見えんな。西の方はきっと雪が降っておるぞ」
ミカルは眉間の上に手を翳し、灰色と紺地の混ざり合う空を眺めた。
「ミカル。ここで少し待とう。これでは迷ってしまう」
兵の一人がミカルに言った。
ラーシュを連れた3人はそこで馬を止めた。
『どうするんだい?お前達。 ヤンを連れているんだ。なんとかしてくれ』
「なんとかしてくれと言われてもな、天気のことだ。こればっかりはな」
『どこか屋根のある所はないのかい? ヤンにミルクをやりたいんだ』
「馬を降りて、そこでくれてやれ」
ラーシュはヤンを抱いたまま馬を降りると、その首の下に座った。
真っ白に吐かれた黒馬の息が暖かかった。
「お、雲が切れてきたぞ。ほれ、切れ間から月がポッカリと」
見上げると目の前であった。
城壁高き白亜の城マウリッツ。
ゆっくりと西へ切れていく地上の雲。夜霧。
その隙間から少しずつその姿を現した。
満月を背にそびえ立っていた。
『これがマウリッツ城か!』
「そうだ。これこそが北の皇帝イブレートのお城だ」
しかし見えていたのは天守だけ。
首を90度に曲げねば仰ぐことができない高く厚い壁が、その周りを取り囲んでいた。
汚れ崩れているようであったが、白い石のみで積み上げられた砦は200年もの間その姿を変えてはいなかった。
積んだ石と石の間からは棘のある蔓が生えていた。
それが壁の上まで絡み合い、まるで大蛇の壁登りの様であった。
『俺は城というものを初めて見るのだが、どうみても古い城だな』
「ああ、数百年は経っている」
『この中で裁判をしているというのか?』
「そうだ。すさんでいるのは外観だけだ。中に入れば驚く。それはそれは美しい世界が広がる」
『本当か、、? 本当にこんな所にアデリーヌがいるのか?』
「ああ」
ミカルはそう言うと城壁の正面を指差した。
錆びた鉄の扉だった。
大昔、戦闘の出陣に使われたそれは、馬が2頭横並びに出入りできる幅と高さがあった。
「ラーシュ、お前も手伝え。開けるぞ。重いからな」
『はあ?ここは裁判を行う所なんだろ? 門番はいないのかい?』
「しかたねえよ。魔女の妖気のせいでこんな所で判決を下すことになっちまってるんだからな」
ジャラ ジャラ
ミかルは懐から掌大の鍵を取り出すと、扉の鍵穴にグイと差し込んだ。
ガチャリン
「ひょ~、鉄は冷てえや。鍵は開いたから、その噛ましてある2本の丸太を外してくれや」
ミカルは2人のお供に指図した。
『ん?ん?』
「なんだラーシュ。どうかしたかい?」
『ん?おかしいではないか?』
「なにがだ?」
『外鍵って、、?』
「ん?は? これはな。えっとぅ?」




