21~統計という魔術・紫の雪
「お前達。ワシの魔術を疑うのかい?」
「魔術と言う名のトリックってとこかい? ヘッポコ魔術。ハハッ」
「おだまりよ! では聞きなさい! 今からな、プルプラの雪を降らせよぅ」
「プルプラ? 紫色の貝のことではないか」
「そうじゃ。赤紫色の雪を降らす」
「なにを言ってるんだ?今日は夕方といえど、まだこんなにポカポカしている。それに雪はいいとしても紫の雪など聞いたことがないわ! 婆さん、、ボケよったかい?」
「まあ、日が沈む前には降るわ。よ~く見とけ」
そう言うとアグニアはまた馬車の下に潜り込んだ。
「では、ドロテアさま。このババアのことはほっといて早速馬を走らせます」
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パカパカ ポコポコ
「おや、雲が」
「西の空だな」
「夕の日を浴びて雲がピンク色に」
ヨーセスとヴィーゴは東と西。馬車の幌枠から空を覗いた。
「ほんとに降るのか?」
「ああ、アグニアの言うとおり。雪雲だな」
「なんだか急に、、冷えてきた」
「ドロテアさま。上着をお召しに」
夕日の赤を残した宵。
西風とともに突然大粒の雪が降り出した。
見渡す限りの海岸線。
端から端まで斜めに降り注ぐ白地の結晶が、赤の陽と濃紺の闇をその細かなパレットの上で混ぜた。
それは天から落ちて来る紫の花。紺碧の海に溶け込んだ。
一瞬にして薄く積もった雪は浜辺の砂をも淡い紫に変え、辺りにその反射を繰り返したあと、黒い馬車を紫の艶色に塗りかえた。
『なんと綺麗な!!』
ドロテアは思わず声に出した。
パカポッコ パカポコ
馬車の下のバケットが開いた。
「どうだい? 言った通りであろう? 信じたかい?ワシの魔術を」
「ああ、びっくりだ。ドロテアさまも目を見開いている」
「しかしな。これもすぐ止む。通り雪じゃ。よ~く見ときんしゃい」
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フィヨルドの沖合。
アグニアの漁村の民。彼らはいつも天候を気にしていた。
それはもちろん漁のため。
浜に帰ってくれば、今日は西の海が冷たかっただの東へ雲は抜けただの。
その世間話は、アグニアにとっては魔術の元。情報網。
いつも耳をそばだてて聞いていた。
この日も西の近い海上に雪雲が出ていたと漁民から聞いていた。
馬車に潜り込む前だ。
距離と風を考えれば夕間詰の時刻に降り出す。
アグニアの頭の中の統計は、瞬く間に時と場所をはじき出した。
それが紫の雪だった。
漁民や海賊との連携はアグニアにその摩訶不思議を生み出した。
魔術は計算されていた。
魔術はヘッポコではなかった。
町の民にはわからぬことだった。
画・童晶
※プルプラ
パープルの語源・紫色の貝
今日は2話投稿致しました。




