表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/1501

21~統計という魔術・紫の雪

 「お前達。ワシの魔術を疑うのかい?」

「魔術と言う名のトリックってとこかい? ヘッポコ魔術。ハハッ」


 「おだまりよ! では聞きなさい! 今からな、プルプラの雪を降らせよぅ」

「プルプラ? 紫色の貝のことではないか」

 

 「そうじゃ。赤紫色の雪を降らす」

「なにを言ってるんだ?今日は夕方といえど、まだこんなにポカポカしている。それに雪はいいとしても紫の雪など聞いたことがないわ! 婆さん、、ボケよったかい?」


 「まあ、日が沈む前には降るわ。よ~く見とけ」

そう言うとアグニアはまた馬車の下に潜り込んだ。


「では、ドロテアさま。このババアのことはほっといて早速馬を走らせます」


ーーーーーーー

パカパカ ポコポコ


「おや、雲が」

「西の空だな」

「夕の日を浴びて雲がピンク色に」

ヨーセスとヴィーゴは東と西。馬車の幌枠から空を覗いた。


「ほんとに降るのか?」

「ああ、アグニアの言うとおり。雪雲だな」

「なんだか急に、、冷えてきた」

「ドロテアさま。上着をお召しに」


 

 夕日の赤を残した宵。

西風とともに突然大粒の雪が降り出した。

見渡す限りの海岸線。

端から端まで斜めに降り注ぐ白地の結晶が、赤の陽と濃紺の闇をその細かなパレットの上で混ぜた。

それは天から落ちて来る紫の花。紺碧の海に溶け込んだ。


 一瞬にして薄く積もった雪は浜辺の砂をも淡い紫に変え、辺りにその反射を繰り返したあと、黒い馬車を紫の艶色に塗りかえた。


 『なんと綺麗な!!』

ドロテアは思わず声に出した。

 


 パカポッコ パカポコ

馬車の下のバケットが開いた。

 「どうだい? 言った通りであろう? 信じたかい?ワシの魔術を」

「ああ、びっくりだ。ドロテアさまも目を見開いている」

 「しかしな。これもすぐ止む。通り雪じゃ。よ~く見ときんしゃい」


ーーーーーーーーー


 フィヨルドの沖合。

アグニアの漁村の民。彼らはいつも天候を気にしていた。

それはもちろん漁のため。


 浜に帰ってくれば、今日は西の海が冷たかっただの東へ雲は抜けただの。

その世間話は、アグニアにとっては魔術の元。情報網。

 いつも耳をそばだてて聞いていた。


 この日も西の近い海上に雪雲が出ていたと漁民から聞いていた。

馬車に潜り込む前だ。

 距離と風を考えれば夕間詰の時刻に降り出す。

アグニアの頭の中の統計は、瞬く間に時と場所をはじき出した。

 それが紫の雪だった。


 漁民や海賊との連携はアグニアにその摩訶不思議を生み出した。


魔術は計算されていた。

 魔術はヘッポコではなかった。

 

  町の民にはわからぬことだった。


挿絵(By みてみん)

画・童晶

※プルプラ

パープルの語源・紫色の貝


今日は2話投稿致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔術とペテンは紙一重。ただ、これを物語として書くのがどれだけ大変か。何気ない1話ですが、しかも、これを大変に見せない、という。すばらしい表現力と思います。
[良い点]  やり手ババアはアグニアですか。笑 [気になる点]  もしかして、日頃の色んな呟きも、物語との関連が?
[一言]  紫色の雪は神秘的でしょうね。  アグニアさんはいい魔法使いなのか悪い魔法使いなのか。  でも、あじのあるキャラクターですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ