表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/1501

20~脱げたアグニアのズロース

「ドロテアさま。そろそろ日が暮れてしまいます。少し馬を速めましょう。ちょいとばかり揺れますが」


先頭馬に乗った男が、その馬の尻を軽く鞭で叩くと、馬車は小走りで海岸線を駆け抜けた。



ガタゴトガタゴト

「あ~!」

キキキキキィ~!


「あッ!」

先頭の馬が前足を高く上げ砂煙とともに急ブレーキを掛けた。

 

 『ひゃ~!』

前のめりになって馬車から飛び出しそうになったドロテアを、ヨーセスとヴィーゴは両手で腰を押さえつけて踏ん張った。

「あッぶね~!」


前を見ると3頭のトナカイが目の前を横切って行く。

「ぶつかるところだったぁ。いきなり立ち上がって走り出すから」

砂浜の上、馬車はバウンドしながら止まった。


コロコロコロ

その砂の上。なにか転がる音がした。

 

 『おや? あれは』

ドロテアが馬車から身を乗り出した。

「あ、あれは水晶玉。ドロテアさまがアグニアの婆さんに差し上げた物!」


と、一呼吸置いてまた何やら転がってきた。今度は煙のような砂塵。

 

 ゴホッゴホッゲホッ

砂煙の中から姿を現したのはアグニアであった。

「痛てててっ」

もんどりうった婆さんは曲がった腰を摩りながら、ゆっくりと起き上がってきた。

「まいった。まいった」

 

 『は~ぁ?どういうことだぁ?』

「なんでこんなところに?」

ドロテアとヴィーゴは言った。


「本物の魔女のように現れてきよったな。婆さん」

ヨーセスが言った。


ゴホッゴホッ

 「アホをぬかせ!本物だからこうして現れたんじゃろうが!」

ゲホッ


ヨーセスが馬車を降りると、パタパタと何か扉の開く様ような音がした。

「ん?これだなあ」

それは馬車の椅子の下。荷物を載せるふたつきのバケット。

「おい、婆さん。ここに居たのだろう?」


 「知らん!」

「飛び出した時に、脱げたズロースがここに。自分の腰の下見てみろよ」

 「あっ!履いとらんがな!こりゃ恥ずかしい! 貸せ!それを貸せ!放れ!」

「ほらよ!ハハハッ」


 『おい、アグニア。これはいったいどういう事だい? 漁師の話にるとお前は二日前にあの村を出たと』

 

 「ハハハ。そいつがなにを言ったか知りませんが、ドロテアさまが村に来た時、ワシは自分の家と反対側におりましてな。はいはい、ドロテアさまが呼びかける声は聞こえておりましたよ。しかしワシは北へ用事があったのでな、ちょいとこの下に潜り込みました。そいつが馬車を覗き込んでドロテアさま達と話をしている間。ほれ、ワシは背がちっこいから、馬車の中からでは見えなかったでございましょうが」


「じゃ、聞いてるじゃないか。そいつが言った婆さんが二日前に北へ向かったという話」

ヴィーゴがそう言うとアグニアは答えた。

 「あ、そうでございますか? ワシは耳が遠いうえ、すでにこの馬車の下に潜っておりましたので」


『ハハ、どうせあれじゃろっ? どこかでヒョイと飛び出して私をビックリさせたかったのだろう? さも魔術使いの振りをして』


 「ドロテアさま。お言葉ですが、振りではなく本物です!」


「どうみても、、振り、、だな、、」

ヨーセスがポツリと呟いた。


挿絵(By みてみん)

砂煙のアグニア婆さん

画・童晶ワラベ・ショー




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ドロテア婆さんとアデリーヌがどう絡んでいくのか興味津々です。 ニシンやサバは北欧も焼いて食べるのかな? 北欧に行ったことがあるのでしょうか? 風土や文化が伝わって来るので、住んでいたの…
[良い点] アグニアの胡散臭さが良いですね。ズロースが脱げちゃうあたりも間が抜けてて良い雰囲気が出ています。 [一言] 魔術師なのか手品師なのか、まだ分かりませんが。楽しく読んでいます。
[一言]  アグニア婆さんの絵、色使いが素晴らしいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ