196~マウリッツ創成期物語4・現人神は紫雪王
「イブレートさま~! イブレートさま~!奴らがやって来ました!」
『は? 誰がだ?』
「はい。この間のバルウとかいう男と薄汚い数十のゴロツキです!」
『用か?』
「西の浜に舟を乗りつけて、沢山の薪と舟が沈むほどの肉の塊りを!」
『早いな、、、なんて聞き訳がいい奴らだ』
「こちらに持って来るものと」
『そうか。お前ら手伝いに行ってやれ』
「え?私達が?この服で?肉の血が滴り着きますが、、、」
『洗えばいいではないか。それにな、これより更に北からの物であろう? 血も凍っておるわ!ハハハッ!』
元々あった2本のナナカマドの木の下。
西の木の下にはトナカイとヘラジカの凍結肉。
東の木の下には薪がたわわと運び込まれた。
『これはこれは!バルウ殿!なんとも急ぎ仕事! 数日の食糧と薪にも難儀しておりました。またまた命を助けて頂きました』
「この人数なら、当分は大丈夫でありましょう?」
『ありがたい。しかしながらこの南にベルゲンとトムロソという町がありましてな、そこから多くの民がこちらに向かっております。その者達が定住に慣れるまではもう少しの手助けをしていただきたいのですが』
「図々しいな、、、ま、聞いておくわ」
『聞いておくとは? どなたに?』
「神だ」
『神? バルウ殿は私達の言葉だけでなく、神ともお話ができるのでありますか?』
「当たり前だ! 神は生きておる! お前らの尺で計るんじゃない! キリストや伝説の中だけにしか神を見い出せないお前らとはわけが違うのだ!」
『そんなことが?』
「それがお前らの頭だ! 現人神! 私達だけではないぞ! 同じような顔をした東国のシナやジパングでは当たり前!」
『ほう。生きておられる神。微塵も考えたことがなかった。 でその神というのはどこに? 名は?』
「神の住んでいる場所なぞ教えられるものですか。イグルーという氷の家に住んでいるとだけ言っておきましょう。 名はアグニア紫雪王。紫色の雪を降らせることのできる神にして、魔術の使い手。われら北の民の頂点に君臨しているお方だ」
『そのような方が、、、いや、神が?』
「そのアグニア様に、この間の紫の石を差し上げたのでありますよ。そうしましたら、これは私の所に来るべくして来た物と大そう喜んで、ここに薪と肉を差し上げろと。私達にとって神は絶大な者。その辺の王や首領とは次元が違う。言われたことは即座にだ」
『では、こちらもアグニア様になにか貢ぎ物を届ければお助けして頂けると?』
「それはアグニア様の気分次第」
『ほう?神に気分があると? それはそれは。絶対ではない神なのですね?』
「あ、いやぁ、そのう、、、」
『ま、何かお返しはしなくてはなりませんが、、、その神。アグニア紫雪王様に一つお伝えして欲しいことがあるのですが』
「なにをだ?」
『次回からは、その腰元の中に隠しておられる剣を堂々と持って来なされと』
「あ、は、、」
※195話~「マウリッツ創成期物語3・イブレートの目」に挿絵を掲載致しました。
宜しかったら是非ご覧ください。




