194~マウリッツ創成期物語2・「彼らを呼べ!」
助けられたのだ。
カヤックの2艘。
その船乗りたちは海面に落ちた縄梯子の裾をイブレートの帆船の甲板に放り投げた。
海賊かと思われた者達。その行動がイブレートの帆船に乗り移る意思のない現われだった。
「あの小船は?」
「カヤックという舟だ」
「ということは、昔我々の国を脅かしてきた者達じゃないか?」
「いくら助けられたとはいえ、まさしくこのマウリッツ城を建てた理由の根源。イブレート様、どういたしましょう?」
『待て待て。あの舟をよく見てみろ。積んでいるのはニシンと蟹ばかりのようだ。この者達が海賊と同じ部族だとしても皆がそうではないであろう。単なる漁民かもしれん』
「そうかもしれませんが、、、」
『助けてくれたのだ。彼らを呼べ!』
「は?呼ぶ? 呼ぶとは、、、城にということですか?」
『そうだ。いくら敵であったとしてもだ。礼を欠いてはならん。呼べ!手厚く接待する』
「イブレート様。手厚くと申されましても私達はまだ入城さえしてはおりません。なにも用意はできないどころか、船はあんな始末」
『奴らもわかっていることだろう。こんな所に私達がいることの方がおかしい。まずは城に呼ぶということが礼なのだ』
「あんな奴ら呼んだら城が汚れますよ。薄汚い」
『掃除をすれば済むことではないか? なんなら私がやろうか?』
「あ、いえいえ。滅相もございません」
『よいか。ただの礼と接待ではない。この極北の地。彼らはここで生きている。いや、きっと更なる北だ。つまりはその食糧の調達。見ての通りのあの毛皮。きっとこの地では必要不可欠。私は彼らにその調達を思い立ったのだ』
「はあ。しかしそんなに容易く承諾をしてくれますでしょうか?」
『カール王に聞いたのだ。クヌーズ大王の時代から、彼らはヘラジカやトナカイと共に遊牧をしていると。食に困ればスカンジナビアを南下し強奪を企てる。それは行き場なくこの氷の海を転々としているということだ』
「それがなにか?」
『このマウリッツに住まわせてやればいいではないか?』
「はぁ?あいつらと?」
『カール王は私をここに放ったが、何も考えてはおらん。ここは人の住む所ではない。それを知っているラーシュ公爵殿は断った。つまりこの城を守り、民を根付かせるには彼らとの共存しかありえないのだ』
「しかしぃ、、、」
『嫌か? 嫌なら私達には餓死と凍死が待ち構えるぞ? よいか、カール王は私達に金は落とさぬのだ。こんな辺ぴな地、城を造ったことだけでも足が出ているのだ。後はお前らでやれということだ』
「はあ、、、」
『ならば彼らを味方につけるしかあるまい。呼べ! 奴らを城に呼ぶのだ』
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二日後。
城壁の扉の前に現れたエスキモーの大男。
名をバルウと言った。
※前話193~「マウリッツ創成期物語1」に挿絵を掲載致しました。
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