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191/1501

191~イブレート着任

 北海帝国の王、ゴーム・デン・ガムレ家のスヴェン1世の急死。

こののち、国を確実に統治したのは、ホールファブレ朝の2人の王を挟んでの、再びのゴーム・デン・ガムレ家。王クヌーズ。大王と呼ばれたその男。スヴェン1世の息子であった。


 ホールファブレ朝が消極的であったツンドラの海賊退治。

息子のクヌーズは躍起になった。

 

 少年時代にその者達に殺された偉大なる父の恨み。

取り巻き兵から聞いたエドワード懺悔王のサファイア。

当時海に落ちたのは船上での出来事。

 

 その船の兵は皆殺され、誰も見ていないゆえか、残した言い伝えは北の海賊がエドワード懺悔王の指輪を強奪したという事のみ。

その奪われたという噂だけが残った。


 それでも度々訪れる海賊。突き止めたのは北極圏に居を構えるネネツという部族ということ。


 クヌーズ大王は親のかたきとばかりに、北極圏に兵を送り出した。

しかしかたきとは名ばかり。目的はエドワード懺悔王の指輪を奪い返すことにあった。




 北へ向け繰り出した数千の兵。

戦ったこともない氷の国。身の危険を感じた軍はすぐに引き返し、翌年の夏を待った。


 ところがである。

未開の地。

暖流の行く先はスカンジナビア半島の北の先で冷やされ、そのツンドラが季節に関係なく氷に閉ざされていることを知った。


 クヌーズ王の命令は頑固。極寒を更に北へ進んだ兵達。

失敗は輪をかけた。


 ネネツという部族。

それはトナカイを追う遊牧民。

ツンドラやタイガの森を毎日のように居を代え、点々と移り住んでいた。

見つけるのは万に一つ。


 それでもノルウェー軍は一度だけネネツらしい部族を見つけたのだが、前をさえぎられたのは数百頭にも及ぶ巨大なトナカイとヘラジカの群れ。


 息を上げたそれらは口の奥深くからモンモンと白い蒸気を吐き上げ、ゴウゴウという雄叫びと遠吠えを繰り返していた。


 クヌーズのノルウェー軍はネネツとの距離を縮めるどころか、迫り来る巨体の群れに後退りを余儀なくされた。


 霧氷と化した白銀は、戻ることさえ戦の場となっていた。


何も知らず鉄の鎧と兜を身に着けていた兵。

冷えた鉄は、血液の流れを止め、

空が針葉樹の森を紫色に変える闇。多くの兵が凍土の上で息を引きとった。


 クヌーズ大王は、紫に光る氷の大地にサファイアが溶けてしまったと断念し、以後二度と軍を送り込むことはなかった。




 しかし彼は考えた。

このノルウェーの北の末端に砦を築き、奴らを向かえ討とうと。



 始まった極寒の地での建設は夏場のみ。はかどらない作業は、それからのことごとく変わる王によって方針が変えられ、いつしか砦は城壁となり、見晴台と兵の詰め所は、巨大な城へと変わっていった。

完成をみたのはそれから300年後カール1世が王の座に着いた時代であった。


その城の守兵の長に任命されたのが、時の侯爵イブレートであった。

 城の名はマウリッツと名付けられた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 1000代スカンジナビアの時代考証が深くとてもおもしろかったです!まさかドロテアやアグニアたちの狙うサファイアが、インドを渡り懺悔王の時代から歴史があったなんて。スヴェン王とクヌーズ王の絡…
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