19~アグニアは海賊?
南西バルデ。
アデリーヌが捕らわれた丘の麓。漁の村。
空はどんよりと灰色に染まり、西からの強い風が白い波の泡を天高く舞い上げ、民家の屋根に潮を吹きつけていた。
そこに現れたのは黒塗りの幌付き馬車。
ドロテア一行だ。
漁から戻ってきたこの村の男衆。漁網の片付けの手を止めた。
「なんだ?あの馬車は? 屋根が付いている」
「黒く光っている」
「あんなもんに乗って来るのは、ドロテアさましかおらんだろう?」
「行ってみるか?アグニアのババアの家の前で止まったぞ」
『お~い!アグニアの!アグニアの婆さんはおるかい~?!』
馬車の中から座ったままのドロテアが、その家の玄関口に声を上げた。
「お~い!アグニアの婆さんや~!」
追い討ちをかけるように隣に座っていたヨーセスも声をかけた。
が、返事は無かった。
隙間だらけの板張りのボロ屋。通りからの小声でも耳を通す様の家だ。
居れば必ず聞こえるはず。
「あ、これはこれは。ドロテアさまでございますね」
馬車の真横に歩み寄ってきた中年の漁師が声を掛けてきた。
『そうだ。ドロテアだ。そんなことより、アグニアの婆さんはどこへいった?』
「はいはい、それを言おうと思いまして。ババアは二日ほど前でしたかな? 北の方へ出向くとか言って出て行きました」
『は?あの婆さん一人で?』
「それは分かりませんが。数日薪に火はくべぬから、漁から戻って来たら自分達で火を焚けと言って」
『ああ、そうかい。この丘の上のラーシュとアデリーヌの事が聞きたかったのだが』
「あ、あの連れて行かれた美しい魔女のことですか?」
『、、美しいはいらん、、、お前らはその2人がどんな奴だったか知っているかい?』
「素性をですか? あまり農民との交流がないのでわかりませんが、、若い夫婦というくらいですか」
『その程度ならいらん話だ。アグニアが北へ向かったのなら、私達も同じ。婆さんの居ないこの村に用はない』
ドロテアがそこを出発すると、通りには多くの漁民が軒に出てその馬車に手を振った。
「ドロテアさま~!お気をつけて~!」
「お身体をお大事に~!」
「またお会いできる日を楽しみにしておりま~す!」
ポッカポッカッ ガタゴトガタン
『まったくもって、魚臭い村だ』
「さようでございますね」
ドロテアの言葉にヨーセスはすかさず相槌を打った。
『で、アグニアの婆さん。北へ向かったという事は、また何か良い品でも分捕ったか?』
「自ら出向くようでは、よほどの品。それ以外には北へ向かう理由などございませんからな」
『もう一つ楽しみが増えたわい。ハハハッ』
「あそこの漁民でさえ、あのババア夫婦こそが海賊の主なぞと誰も知りませんからな」
『しかも爺は、ほとんどこの村にはおりはせん。いつも浜小屋で私と宝を待っている。サバとニシンを焼いてな。ハハハッ』
※11~浜辺の小屋に、またまた私の描いたデッサン風イラストを掲載致しました。
宜しかったらご覧くださいませ。
また拙い絵ですが、あくまでイメージという事でお許しください。




