189~スヴェン王の死
ノルウェーの村々を襲ったツンドラの海賊。
内陸から一旦フィヨルドの海岸に戻ると、その船団はノルウェー海の海流に乗り、更に南へと下った。
ベルゲン港にいた八字髭のスヴェン王は悠々と身構えた。
すでにデンマークも抑え、イングランド王国は引き上げたとはいえ税を操る支配下に置いた。
つまり3国の王に昇りつめていたのだ。
噂に聞いたのは、たかが北の盗人。
彼の頭の中は、薄汚い数人の小童。
今闘いを終えたイングランドの兵と比べるに及ばず。首根っこを捕まえて海に放り投げれば良い程度の思惑であった。
しかし取り囲まれたのだ。
50にも及ぶカヤックの船団。1000人はおろうかというヘラジカ如き北の悪魔。
夕刻のノルウェー海。
紫とオレンジが白い靄に入り乱れる水平線。
それは一気に迫り来ると、彼らが手にしていたヘラジカやトナカイの角槍。
イッカクの牙の刃が船底を抉り取るように突き出した。
あろうことか、スヴェン王と数人の兵が乗っていただけ。
戦争帰りの大型の帆船は、点検と修理を施す為に乗り入れが出来ず、この小さな帆船にいたスヴェン1世。
そこには北海帝国という新たな国旗がはためいていた。
なぜスヴェンは陸に降り、その間を待てなかったのか。
それは国王の習わし。
国を留守にしている間の謀反と言う名の革命の可能性。
陸に足を踏み入れるには、国王といえど怠りない配慮と謀反者の確認が必要であった。
取り巻きの兵が駆り出され、わずかの兵しか残さなかったことはその要因の一端
反対側に着けていたカヤックから一斉に飛び移ったエスキモー。
数人のノルウェー兵を蹴散らすと、瞬く間にスヴェンを捕らえた。
暴れ出したスヴェン王。
その指先から紫のリングが飛んだ。
船の縁にコツンと当たると、オレンジ色の海中奥深く沈んでいった。
ポチャンッ
1014年の事である。
この事実はスヴェン国王の急病死という形で幕が切れた。
それは3国を抑えた大いなる国王。
あっけなくエスキモーの民に殺され、その地位を剥ぎ取られたとは噂にでも出来ぬ事であった。
画して「北極の海賊」という名はその存在さえ消され、伏せられた。
ただ彼ら北の民には好都合であった。
白人達にとっては辱めの敗北。
襲われても口にできない亡霊のような海賊。
歴史にもその名を遺すことなく、強奪と殺人が行われ続けたのだ。
その彼らの行く末を占ったのが北極圏イグルーに住むアグニアという女霊媒師。
賊を取りまとめたのがバルウという男であった。
この事件をきっかけに、度々餌を漁りに南下したツンドラの船団。
フィヨルドの地形すべてを掌握した彼らの強奪は、その後オーラヴ2世聖王が即位した後も変わらなかった。
北海帝国の国旗
西暦1000年当時の本物のデザインです




